鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.018 〜ハタハタ〜
 
株式会社手塚商店 代表取締役社長 手塚太一さん(鶴岡地区)

鶴岡では12月9日の大黒様のお歳夜に、子孫繁栄の願いからブリコ(卵)をもったハタハタの田楽や、まめに暮らせますようにと豆料理をいただく習わしがあり、その時期になると市内各所でハタハタやその田楽、豆料理が売られています。今回は、庄内浜文化伝道師マイスターにお話を伺ってきました。
 
庄内浜文化伝道師
とは、山形県の地魚の美味しさや浜文化を伝える人のことで、地魚の消費拡大や地域特有の食文化の伝承を目的に山形県が試験により認定しています。
また、伝道師の知識、調理技術を高めるための指導役として伝道師マイスターが任命されています。そのおひとりである手塚太一さんの会社にお邪魔しました。






手塚商店の手塚さんは、鶴岡水産物地方卸売市場の卸売人業務を行っています。
漁港の近くにある産地市場に対して、市街地にあるのが消費地市場で、鶴岡水産物地方卸売市場は後者にあたります。
銀行や病院、飲食店が立ち並ぶ一角にあります。
手塚商店の歴史は江戸時代まで遡り、その元になったお店は塩引き(鶴岡では「しょんびき」と呼び、塩鮭のこと)などを扱う塩物屋さんでした。その後、市場を運営する手塚商店として明治初期から現在に至ります。
 


知らないから知りたいと思う

祖父、父から店を受け継いだ手塚さんですが、当初継ぐ気は全くなかったそうです。
音楽や映画・演劇が大好きで上京したものの、舞台を見続けるうちに限界を感じ、大学卒業後は洋菓子メーカーに就職しました。しかし、結婚を機に、拠点を鶴岡におくことを決意し、家業を継ぎました。


「水産学校を出ていないから詳しくないんですよ。仕事を始めて知らないから知りたいと思うようになった。同じように見える魚なのに、種類が違ったり、春に食べた魚と秋に食べた時の味が違ったり、あとは呼び名が違ったり、いろんなハテナがあって人より覚えようとかじゃなくて探求心でこんなことになりました。」
 
柔和な印象の手塚さんですが、魚のお話となると徐々に熱がこもります。そんな手塚さんに新聞社から依頼があり、庄内浜の魚について連載された記事が、現在は「庄内浜の魚たち 魚市場旬だより」として出版されています。
庄内で愛される魚の一つ一つを季節ごとにその歴史や魚の生態とともに親しみやすく紹介されています。おいしい物好きで、探求心旺盛な手塚さんならではの1冊です。

大黒様のお歳夜のハタハタ

「これからよく獲れるのがハタハタ。7-8月が休漁で9月から漁が始まる。
ハタハタは、産卵の時期に藻に産卵するため岸へ向かって泳いでくる。人の近くにくるからいっぱい獲れるんです。
普段は沖合の水深400mのところにいて、砂に潜っている。そんなところから外国では『サンドフィッシュ』と呼ばれているんですよ。
これからブリコ(卵)をたっぷりもった立派なハタハタがよく売れる季節です。
各所のハタハタの生育具合を見ながら、生育の良いものを仕入れるんです。
12月8日当たりから、夜通しハタハタを焼いている魚屋さんもあるんですよ。
12月9日の市場はひっそりとしたもんです。だってみんなハタハタの作業で忙しいから。たまのお客さんといえば、ハタハタが足りなくて買いに来られる人くらいですよ(笑)」

鶴岡の台所として、鶴岡の魚とは

鶴岡の台所を自負される手塚さんにとって、鶴岡の市場になくてはならないとおっしゃる魚があります。
「鶴岡の人が好むものはタイとヒラメ、それから口細は絶対に必要。ハタハタも。
昔、お店屋さんではタイとヒラメは紅白を表わし最高のお刺身になるので、それで恰好がついた。
今はマグロも使われるようになったけど・・・。
この辺で獲れなければ、新潟や青森からでも取り寄せます。」
 
鶴岡市場では、お客様の要望によって全国または世界の産地から魚を取り寄せています。
全国の魚を取り扱う手塚さんですが、鶴岡の魚の特徴について伺いました。
「魚種とかよりも、一番は漁業的なことなんですが、山形県は秋田や新潟に比べて海に面しているところが少ないですよね。損しているというというか(笑)、水揚げ量は東北で一番最低です。
岩場も多い、それに時化も多いのでなかなか(漁業が)発達してこなかった。だから小さい船が多いんです。他県は何十人も乗るような船ですが、この辺だと2-3人乗る小さな船で魚を捕っている。(小さな船は)魚の量も大して獲れない。ということは魚の扱いが丁寧なんですよ。同じ今日獲れたといっても海の底をガリガリ曳いてきた(板曳き)魚と網で獲った魚は違う。丁寧な扱いで獲れた魚は鮮度が全然違うんですよ。」

子どもたちの食育を大切にしたい

近年漁獲量が減り、また魚食文化も先細りしつつあることが問題となっていますが、手塚さんも顔を曇らせます。
「魚離れしていますよね。どうやらみんな骨(とぎ)があるから嫌いだと思うんですよね。
以前、教育者に言われました。骨から身をとる作業で知能が発達するらしい。
日本は魚食文化。骨からとって魚の身を食べていたから世界に誇る優れた技術者が出たのでは。
面倒くさいのは分かるけど骨を取りながら食べた方がいいと思う。子どもたちに魚を食べさせる料理教室をやっている。そういったことがすごく重要だと思う。時代の流れとしては骨なしにして普及しようという感じですが、私はやや反対論者なんです」
 
魚を食べてほしい。けれど食べやすい工夫ではなく、骨がある食べにくさとともに味わってほしい。魚が大好きな手塚さんならではの思いです。
 
一方でご自身の小さい頃も、魚があまり好きではなかったそうで、鶴岡を離れて魚のおいしさに気づいたとも。今好きではなくても、小さな頃から親しむことで魚を楽しんでくれればと考えています。


目利きがつながっておいしい魚が食卓に並ぶ

「昔は目の色、身の厚みを見て、触って、太っているか、脂がのっているか、活きがいいかと仕入れる人や一般の人も見ていた。
魚の獲れたところの目利き、僕らの市場の目利き、魚屋さんの目利き、そして家庭のお母さんたちの目利きがあってお家でおいしい魚が食べられる。
今はその目利きが途中で終わってきている。
パックに入っていると賞味期限でしか判断できなくなっているのが残念ですね。
 
ちなみにハタハタの見極め方は、鮮度が悪くなると頭や口の周辺が赤くなる。触るとつるつるしていない。捕れて4日くらいするとざらざらする。柄がはっきりしていて、金というか銀というかピカピカ光っているのが鮮度がいいんですよ」
 

ハタハタ

通年を通し愛されている食材ですが、特に注目を浴びるのは大黒様のお歳夜(12月9日)の日です。お供えするお膳にはハタハタの田楽が欠かせません。


収穫時期

通年(7-8月は休漁)
買えるところ  三浦佐五兵衛鮮魚店 
TEL 0235-22-1462

坂尾鮮魚店
TEL 0235-24-5255

※ハタハタの田楽は両鮮魚店とも大黒様のお歳夜の時だけ販売。
その他、鶴岡市内の魚屋、スーパーでお買い求めください。

おすすめの食べ方

手塚さんのおすすめは湯あげ。
魚が浸る程度のお湯を沸かし、ハタハタを入れて茹でたもの。
シンプルだけど、ハタハタ本来のおいしさが引き立ちます。
 


 
 


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