鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.025 〜月山筍(がっさんだけ)後篇〜
 
羽黒町手向地区 佐藤俊一さん

月山筍(後篇)

月山の雪嶺が日に日に小さくなる6月に入ると、「月山筍」の採取が始まります。月山にはその地域の人しか採れない採り場があります。今回、羽黒町手向地区の佐藤俊一さんに同行して「月山筍」の採取を体験してきました。



 「本当に行くのか?そんな生半可な気持ちでは行けねえぞ。」月山筍の採取の同行取材を申し出ると、佐藤さんは何度も言いました。
朝5時。佐藤さんの作業場を出発。いつもは4時にはもう出発しているといいます。そこから4合目まで車で行き、まだ道路が開放されていてない4合目から8合目までバイクで行きました。8合目からはいよいよ徒歩で採り場に向かいます。
沢まで降りたと思えば、雪渓を渡り、また尾根まで登り、そしてまた沢まで降りるということのくり返しです。
 
「月山筍」として親しみ呼ばれ、食材として使用され始めたのは、正直いつからなのかわからないそうですが、出羽三山が隆盛を極めた江戸時代にはもう多用されていたといいます。
月山には、代々継承されてきた地域で、手向、立谷沢、東堀越など集落ごとにそれぞれ採り場が決まっていて、その領域に入らないことは暗黙の了解になっています。
また、採る人によりそれぞれ自分の秘密の場所があるといいます。


8合目から、歩き始めて1時間半程で佐藤さんの採り場に到着しました。前編では佐藤さんの筍畑を訪れましたが、その笹薮よりさらに背の高い、3〜4メートルはある笹薮です。
 


高さ3〜4メートルはある笹薮

 筍採りは斜面の下のほうから横へ移動しながら、ジグザクに登っていきます。腰を屈めて低い姿勢を保ち、地面に僅かに顔を出す筍を見つけるためです。
始めは、佐藤さんには直ぐに目に入る筍が、なかなか目に入りませんでしたが、徐々に目に入るようになりました。この作業は実は集中すると危険が伴います。笹薮に入ると周りは背の高さも2~3mぐらいのササタケしか見えず、気がつくと、慣れた人でも迷ってしまうほど、方向感覚が無くなります。また、熊もこの月山筍が好きなので、偶然、遭遇したりすることもあるとか。また、見つけた筍を採るときに枯笹で目を痛めてしまうこともあるそうです。素人が山に入って採るのは、とても危険だといいます。

雪の中に筍を埋めます
佐藤さんが一度に採る筍はおよそ20〜40キロ。鮮度を保持するために、採取する量がある程度になると近くの雪渓に穴を掘り、そこへ筍を埋めておきます。
 

 

リュックには堅雪をいれます
場所を移動しながら何度か採取をくりかえし、採取を終えると布のリュックに隙間ができないように丁寧に詰めます。最後に堅雪を上にのせて終了。筍は乾燥を嫌うので、そのために布製のリュックにいれ、また歩いているうちに背中の熱で筍が蒸れないように雪を入れる訳です。ここまで気を遣うのには、鮮度を保つためのお客さんへの最大の心遣いと言えるでしょう。
 


色白のものが美味しい

一度美味しい本物の筍を食べたら、採る方もそれを求めてしまう。佐藤さんは途中にある細い筍には目もくれず、自分の採り場までまっすぐやってきます。
  
月山筍の中でも特に「大抜」と呼ばれるものは見た目の立派さだけでなく、その旨さは一度食べたら忘れられません。淡いクリーム色の素肌に根元まで柔らかく、生のまま食べてもえぐみもありません。
  
この旨さの秘密は、どうやら生育環境にあるといいます。表皮の色は、紅色がいいとおもいきや、表皮の色は何故か区域ごとに異なっているそうで、表皮の色がどうであれ、むしろ地肌の色がクリーム色の物は全般に柔らかく、香りもいいようです。
 


まだ残る雪渓を歩いて行きます

月山では、ネマガリダケにとってほどよい雪(豪雪)が7ヶ月余り続き、その間優しく雪の下で包み込まれます。そしてその間に十分な養分を蓄えて休眠し、雪解けが始まる6月には、しとしとふる雨が筍を柔らかくし、一段と味わい深いものにしてくれるといいます。
 
この日は、お天気もよく、筍山はすこし乾いていたため、いつもより収量が少ないと佐藤さんはいいました。それでも2時間で20キロちかい月山筍を採取しました。
 


帰り道、自分の荷物も合わせ30キロちかいリュックを背に一歩一歩雪渓を進み、谷を登り、また8合目まで戻りました。途中息があがるほどの急な斜面もあります。月山筍を採るのにこんなに大変なこととは、食べる人のどれくらいの人がわかっているのでしょう。  
 
「苦労してとった筍は本当お金にはかえられないものだの」と佐藤さん。この苦労をわかる人、食べてもらいたいと心から思う相手にしかあげたくないと佐藤さんは言います。
 
雪渓の端に咲く猩々袴、新緑と雲の合間からのぞく青空、山の稜線。息を整えるために立ち止まったときに、峰を渡ってくる風の気持ちよさ。雪解けの水の音を聞きながら歩いていると、一歩一歩踏むたびに山の恵に感謝したくなります。

「こんなに苦しい想いをしても、また行きたくなるなやの」と笑顔で話す佐藤さん。
 
最後に「どうだ、また月山筍採りに行けるか?」と笑いながら聞かれ、苦しい想いをしてもまた行きたくなるという気持ちに同感する自分がいました。
 
 
(文・写真 俵谷敦子)

月山筍(がっさんだけ)

自然が育んだとっておきの逸品といえる「月山筍」。楽しめるのはほんの僅かな季節である。

販売
時期
6月中旬〜7月初旬
買えるところ 佐藤農園 

鶴岡市羽黒町手向字百目木73-21

TEL FAX 0235-62-4122

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