鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.037 〜だだちゃ豆〜
 
だだちゃ豆農家 富樫裕子さん(鶴岡市白山)

いよいよ夏ももうすぐそこ。前の日にようやく雨が降り、農家にとって恵みの雨だ、と皆が口々に言う6月の終わりに、だだちゃ豆の本場、鶴岡市白山の富樫裕子さんのお宅にお邪魔しました。

だだちゃ豆の畑の中で

最初に案内されたのは、だだちゃ豆の作業場でした。「そこさ座ってください~。」と豆の選別の機械を机代わりに、お話をお聞きしました。出していただいたお茶うけは、一足早い枝豆でした。「まだだだちゃじゃないから少し劣るけど、初物だからやっぱりうれしいですよの。」裕子さんはやわらかくて優しい雰囲気。少し話をするだけでも、ほっとする、芯があるしっかりとした女性だな、と感じます。



出荷待ちの豆(品種はおつなひめ。だだちゃ豆の収穫はもう少し先)

だだちゃ豆の作業場がフル回転するのはもう間もなくです。多いときには15人ほどの人が働き、収穫、さやとり、洗浄、選別、箱詰めを午前中のうちに済ませるそうです。
  
それぞれの機械たちは準備万端で、これから来るだだちゃ豆を待ち構えているようでした。最盛期には家のひとは朝3時から動きはじめ、働く人が朝6時ころから作業開始。
「午前中のうちにその日の作業を終えて、午後から出荷なんですよ。なので、割と働きやすいシフトだと思いますよ。」と裕子さんは言っていました。
  
昔の話も少し聞いてみました。「小さいときは、豆の時期は夏休みなのにたたき起こされて、周りの同級生が海に行ったり出かけて行ったりしているのに、家の仕事をしなくてはいけなくて、恨めしいだだちゃ豆だったなやの。それからうちでは牛や豚を飼っていたの。近所も買っているところが結構あって。隣の豚がおっきくて、水が欲しいと夜中に逃げたり。」
  
裕子さんは、3人姉妹の真ん中。「姉妹の中ではカエルもミミズも案外と平気で、山登りも好きで。」と今でいう自然派。お話しする一言一言に優しい目で生き物や風景と対話しているような雰囲気が伝わってきます。そして裕子さんはだだちゃ豆に対しても同じようなのです。


広がるだだちゃ豆畑

これから大きくなるだだちゃ豆の赤ちゃんがたくさん待っていた

だだちゃ豆の畑にも連れて行っていただくと、印象的な言葉を聞くことができました。

白い小さな花

「雨が降って、すごくいい感じだの。ふぁ~っとしての、いちばん伸びる時期だなやの。」
葉をグンと伸ばしただだちゃ豆。よくよく見てみると小さな白い花と、まだ赤ちゃんのさやがついていました。だだちゃ豆の特徴である表面の毛もしっかり整っています。
 
 
「豆の花は、下から咲いて上が後で咲くなやの、上は日が当たって太りやすいから、理にかなってるなぁって感心するよの。」
 
今年は水分不足と5月の風で、側枝が思うように伸びなかったのが心配の種だそう。しかしながら、裕子さんがおいしいという<早生白山>は、花が咲いた時期から計算すると、今年はちょうどお盆の時期に収穫できそうだ、とうれしそうに話してくれました。


種豆調整する道具。今でも使うそうです。

だだちゃ豆の作業は畑に出るばかりではありません。冬場にも家での仕事があります。種取り用に植えた苗から種をとり、選別するのです。
 
11月頃、収穫用には丸い太ったもの、種取り用には太っていてきんちゃく型のシワがあるものを選ぶそうです。収穫用のものは、発芽が素直で計画が立てやすい物を選び、種取り用には元々の性質が強く残るものを選んでいるとのこと。試しにあった種でやって見せていただきましたが、その手さばきはマジシャンがトランプを操るようで、長年の経験から手と目がおぼえているというのはこういう感じなのだと思いました。
 
選別の作業と種まきの作業は、代々女性の仕事でした。今では男性、女性で仕事をきっぱりわける、と言うこともないようですが、女性がやっぱり得意みたい、と言います。
 
「男性は、植え付けとか、収穫とか集中的に力を使うような仕事に向いていて、女の人はなんだかんだ一年中豆に関わっている感じがする。はっきりはよくわからないけど、女性が気付く細かいところっていうのがある気がすんなやの。役割分担て大事だ。」
 
とやさしく笑いながらいろいろな仕事風景を思い浮かべているようでした。

だだちゃ豆の栞をみせていただいた

家族とだだちゃ豆

今は息子さん夫婦と孫3人も一緒に生活しています。やんちゃ盛りの男の子3人のお孫さんの話をするときは、とても楽しそうです。
 
「3人いると、競いながら仕事を手伝ってくれることもあるのよ、そういうときは助かるし、にぎやかでいいもんだよの。だだちゃ豆の種をまくときも、1つだけじゃなく2個3個一緒に入れたほうが、競い合ってちゃんと芽が出るから、人も豆も生き物でおんなじだなって思うんですよ。」
と笑っていました。

だだちゃ豆の苗

「自家採種って大変だと思うことも多いですよ。疲れて、あといいかな、って思うとだめになってしまうし。人は楽な方につい行ってしまうから、家のほかの仕事大変だったりするととても疲れてしまう。だから、たまには外に出て、いろんな人に会うのも刺激になっていいもんですよ。ほかにも農業頑張っている人の話を聞くと頑張ろうって思う。」
 
裕子さんのご両親は、歌を詠むのが好きで、二人の合作の本も2冊出しています。少し見せていただきましたが、庄内の自然や、行事、家族や、豆の仕事のことが詠まれていて、この土地が好きなんだ、と言うことが伝わってくるものでした。


ご両親の短歌

「わたしは母の詠んだ歌が好きなんです。風景が目に浮かぶようで。」 同じ仕事を受け継いだ女同士だから、言っていることや感じることがよくわかる、そう言っているようにも聞こえました。
  
「私にとってだだちゃ豆は生活の糧であるのはもちろんだけど、それだけじゃない。伝えられてきたものを受け渡さないとな、と思う。自分の代でおいしくない、と言われたくないしね。」と、裕子さん。口数は多くないが、ひとことひとこと大切に言葉を選んで話してくれました。
  
富樫さんのところでは、だだちゃ豆を届けた人には、<だだちゃ豆の栞>を送付しています。次で30号になるその小さな冊子は、これまでに関わった様々な方が思いと共に、文章を寄せていました。もちろん、ご両親の短歌も。自家採種することや、だだちゃ豆の栞も、続けていくことは、歴史が積み重なっていくとともにどんどん関わる人も多くなります。きっと責任感の強い裕子さんはよけいに大変だろうと思いました。

だだちゃ豆の栞、次が30号

 だだちゃ豆というブランドも今や全国区になり、品質や量、ニーズに応えながら維持していくことは様々な努力の上にあるのだと実感。
 
取材を終えて、だだちゃ豆の畑の向こうに見送りの裕子さんと、遠くに高舘山がみえました。これから来る本格的な夏と、だだちゃ豆の旬が待ち遠しいです。ここで育った豆たちはきっと裕子さんの控えめな笑顔のような芯のあるやさしい味がするんだろうな、と期待が膨らむのでした。
 
 
(文・写真:稲田瑛乃)  

だだちゃ豆

鶴岡周辺の限られた地域で江戸時代から農家が大切に守り生産されてきた枝豆の「在来種」です。
外皮が褐色がかり、表面のうぶ毛が茶色で、深くくびれています。ゆで上がりはとうもろこしのような甘い香りが特徴です。
収穫時期は、早生豆など一部早く出回る品種もありますが、8月の旧盆の頃から9月上旬までのごく短い期間。限られた地域で生育したものしかだだちゃ豆の本来の味にならないと言われています。
 
 
旬の時期

     8月中旬~9月上旬 




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