鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.056 〜庄内プロシュート「ノービレ」〜

東北ハム 帯谷伸一 代表取締役

鶴岡市内で昭和9年に創業した東北ハムは、東北地方の中でも畜肉加工業界では草分け的存在です。東北ハムはこれまで数々のコンクールで賞を受賞していますが、一番最近では、2018年のドイツ農業振興協会(DLG)のDLG国際品質競技会にて、無添加生ハム、庄内プロシュート「ノービレ」が金賞を受賞しました。帯谷社長に、こだわりと取り組みについてお聞きしました。

東北ハム 帯谷伸一さん

東北でも歴史あるハムソーセージ製造企業、東北ハム

 東北ハムといえば、無添加のハムソーセージやベーコン、焼き豚などを製造していて、歴史のある食肉加工の地元企業として地域からよく知られています。そんな中で今一番の話題は庄内プロシュート「ノービレ」です。ノービレは、2018年1月から販売を開始した出来立ての新商品。様々な試行錯誤の末、販売にこぎつけました。

 東北ハムでは、元々は生ハムの製造をしていたのですが、製品としては約10年前に一度製造をやめていました。生ハムは同じハムではあるのですが、その名の通り非加熱で製造するため、加熱で殺菌する通常のハムソーセージと製造の方法が異なり、衛生面に関して気を遣わないといけなくなる、ということが理由の一つです。

生ハム原木と製品

 製造段階での課題のほか、実は帯谷社長には生ハムに対する想いがありました。

「生ハムと呼ばれるものには、2種類の製造方法があります。一つは、数週間~数か月ほどで完成する糖類を添加して日持ちするようにしたもの、もう一つは塩と胡椒と小麦粉のみで、長期熟成して肉のうまみを引き出す方法です。それまで東北ハムで作っていたものは、前者の生ハムだったので、せっかく作るのであれば、こだわって本格的なものができたら、という構想があり、一旦生ハム製造を休み、時が来るのを待っていました。」

そんな中、イタリアへ視察旅行に行き、本場の生ハムの製法や知識に触れた時から生ハムの物語が再び紡がれ始めました。

宝田に工場がある

「イタリアと日本を見てみると、地形や気候がとても似ているんです。特に山形県は、緯度もほぼ同じ。食文化にも共通性が見られます。たとえばイタリアにはワインがあって鶴岡には日本酒がある。発酵食品の文化や、素材を大切にする料理が多いこと、海岸線から山への距離感もそうです。イタリアに行って、鶴岡で生ハムをつくらない理由はないな、と強く感じました。“作りたい”、というのが“作れる”という思いに変わったのです。」

イタリアのパルマで

帯谷さんは技術者と共に、日本でのプロシュートタイプの本格生ハムを研究しつくっている帯広畜産大の十勝生ハム研究所へ1週間、製法を習得しに行きました。そこではもちろん細かい製造法を学び、温度環境を整えることで十分製造可能だと確信し、鶴岡に戻りました。

「せっかく山形で作るのだから、山形の素材で製造したいという思いは当然ありました。豚肉は最上川ファームのSPF豚を、また、加工の途中で小麦粉を使用するところを庄内産の米粉に置き換えて製造することにしました。」豚肉は最上川ファームのSPF豚を、また、加工の途中で小麦粉を使うところは庄内産の米粉に置き換えて製造することにしました。豚肉は最上川ファームのSPF豚を、また、加工の途中で小麦粉を使うところは庄内産の米粉に置き換えて製造することにしました。豚肉は最上川ファームのSPF豚を、また、加工の途中で小麦粉を使うところは庄内産の米粉に置き換えて製造することにしました。

帯広へ出向いた時の様子

壁には研究発表のポスターが

材料と技術が整い、生ハム製造の中でも最も重要といっても過言ではない熟成をどうするか、という段階になり、通常は様々な熟成期間のものをつくり、決定していくのですが、ここでまた、鶴岡である良さが発揮されることになります。生ハムの熟成期間は、16か月以上がよいと言われており、完成まで何度も試作をしていると、製品として完成するまでの期間がどんどん長くなってしまう可能性もあります。
「生ハムは、肉の質や大きさと気候条件でベストな熟成期間が決まるのですが、そこは単純にイタリアの熟成期間でというわけにはいきません。庄内では何か月熟成がおいしいのか?味を見て評価する官能検査だけではなく、科学的に実証することで、ベストな熟成期間を探りました。」

2018年に受賞した金賞

産官学連携で分析

2013年からの2年間、庄内プロシュートの試作品は慶應義塾大学先端生命科学研究所と共同研究として、メタボローム解析をしました。比較したのは東北ハムで作った熟成期間12ヵ月、18ヶ月、24ヶ月の三種類の生ハム「庄内プロシュート」とイタリアのパルマプロシュート、スペインのハモンセラーノの全部で5種類。うまみ成分の含有量がデータ化されました。

 さらに、山形県工業技術センター庄内試験場による、味覚センサーを用いて美味しさをデータ化する研究も実施。一般の方も含めての官能検査(人間の感覚(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚など)を用いて製品の品質を判定する検査)で実際に食べてもらい評価をするという検査もしました。

試作一回目のプロトタイプ

その結果、18か月熟成が最も評価が高く、実はこれは、帯谷さんの想像していた通りだったそうです。こうして、最も庄内の気候と材料に合う熟成期間が決まりました。もう一つ、決まっていないものがあります。それは「塩」です。塩は、はじめは岩塩を使っての仕込みをしていましたが、イタリアでのやり方に習い、海の塩を使うことにしました。幸い、日本海があり、笹川流れなど塩をつくっているところも近いため、種類も豊富です。いくつかの塩を試しながらこれだというものを使用することになりました。そうして東北ハムで庄内プロシュートとして製造がはじまりました。
販売がスタートするまでの間、東北ハムではいくつかの動きがありました。オリジナルウインナー(平成26年)、直火焼きベーコン(平成26年)、庄内豚ロースハム(平成29年)がドイツ農業協会(DLG)コンテストで最高賞の金賞を受賞しました。この品評会は、日本開催のコンテストでした。2018年4月に東北ハムは、ドイツ開催のコンクールにも出品し、本場でも金賞を受賞しました。また、2017年の12月より、鶴岡第2工場(生ハム専用工場)がようやく稼働をはじめ、年間を通じて生ハムが製造できるようになりました。現在そこでは従来の2カ月間熟成のもも生ハム並びに生サラミを製造をしています。

これまで数々の賞を受賞している

2018年1月、念願の長期熟成生ハム庄内プロシュート「ノービレ」が販売開始にようやくこぎつけました。現在、1年目は50本、2年目は32本、3年目は80本、4年目は120本・・・と徐々に数を増やしている段階だと言います。現在は販売先を限定していますが、多くの方の食卓に届けられるよう努力を重ねています。

 地元のイベントや事業所などとも協力しながら、2018年5月には「日本酒に合う生ハム」として出し、好評を得ることができました。

完成した製品

今まさにのりに乗っているともいえる庄内プロシュートですが、帯谷さんの夢はこれだけでは終わりません。

 「現在の日本の豚の肥育方法では、110㎏までしか育てていません。ヨーロッパでは220㎏まで時間をかけて育て、2年間熟成させるという方法があります。いつかは十分に育てた豚を生ハムにできたらと思います。また、今試験的にやっているところなのですが、イタリアのパルマでは一般的な皮つきの豚での生ハムづくりをしています。皮つきは現在日本では沖縄以外ではあまり一般的ではありません。新潟の新発田で皮つき肉を提供してくれるところがあったので、お願いしました。」

お披露目の時に出された一皿

「日本ではワインが一般的になって、ワイナリーも増えてきました。しかしまだまだ生ハム単体で食べる文化は浸透していませんし、少しずつ広めて行けたらと思います。庄内産のもので作っているので、地元産の日本酒やワインとの相性は素晴らしいです。地元で作って地元で食べる。当たり前のことを大切にしたいです。地元でちゃんと消費される食材でありたいです。私が初めてイタリアのパルマで食べた生ハムの味が忘れられません。作っているその場所で食べるという感動です。観光客が今後増えると言われていますが、庄内産の日本酒とこの生ハムで忘れられない時間を過ごしてもらい、また来たいな、と思ってもらえたらと願っています。オール鶴岡、オール庄内で、品質を高められたら。」

  帯谷さんは、語ります。最近は少しずつ自分のところで作るものをPRして販売展開する企業も増え、連携しながら進めていきたいと思いを強く話してくださいました。
 庄内は、食材が豊富なところも自慢の地域ですが、加工品やお土産品の分野ではやや弱いところもありました。多くの事業所が試行錯誤をしながら商品開発をしていますが、お国自慢の商品の一つとして生ハムが加わる日も近いのではないでしょうか。
(文・写真 稲田瑛乃)
▼DLGコンテストとは

 DLGコンテストは、1891 年から、DLG はドイツで初めて食品の品質審査を行っている。 この伝統と功績により、DLG コンテストは食品品質に対して世界で最も歴史のある品評会となり、毎年、肉製品やハム、ソーセージ、パン、製菓、乳製品、惣菜そして飲料など様々な品質審査を行う。これらの DLG の品質評価はヨーロッパ基準の「DIN EN 45011」「DIN EN ISO 17024」に基づいて実施。この審査方法によって、毎年 30,000 点以上の製品が審査されている。参加企業は出品した製品1つ1つについて評価報告を受け、品質基準を満たした全ての製品に対して DLG メダルが授与される。日本開催のコンテストも国際品質協議会と同じ審査基準で、外観、内観、蜀漢、風味、味の5項目すべてで満点を獲得した製品のみに金賞が授与される。審査員も国際競技会の担当者が務め、ドイツから来日している。

庄内プロシュート 「ノービレ」

イタリア語で骨付きもも生ハムを総称してプロシュートと称します。特にパルマ産の18ヶ月間以上熟成させたものをProsciutto Di Parmaと称してDOP(保護指定原産地表示)の格付けを得られます。 イタリアパルマ産の「パルマプロシュート(Prosciutto Di Parma)」といえば、世界中から愛される世界3大生ハムの1つ。

長期乾燥と熟成により、余分な水分が抜けると同時にたんぱく質が分解してうまみ成分が生成されることにより醸し出される、芳醇な風味とまろやかな口どけが人気です。 そしてこのたび、この本場パルマの製法に準じて誕生したのが、庄内プロシュート『ノービレ』です。 庄内の厳選された素材を用い、究極の無添加でつくられています。 庄内プロシュート『ノービレ』は、日本の風土・文化を反映してパルマプロシュートの味を再現した、新しい生ハムです。
 
 

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