鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.069  松ヶ岡の行事食(いもごぼたもち他)

 鶴岡市松ヶ岡 山田 千枝 さん

 
 
  鶴岡にはその地域に特有な行事食・郷土食がいくつかあります。その一つが羽黒町松ヶ岡地区に伝わる「いもごぼたもち」です。山田千枝さんの山田家は松ヶ岡地区に最初に入所しました。山田家で一年を通して行う主な行事とその代表的な行事食についてお話を伺いました。 

作ったひし餅を飾る山田千枝さんとお孫さんたち

松ヶ岡の歴史について

鶴岡市羽黒町松ヶ岡地区は、かつて山林でしたが、明治初期、戊辰戦争で新政府軍に降伏した旧庄内藩は、1872 (明治5)年、旧藩士ら約3千人が刀を鍬に替え、庄内一円からの支援を受けながら松ヶ岡の開拓に挑みました。建設した松ヶ岡開墾場では、当時一大輸出品であった生糸の生産により国の近代化に貢献しようと、桑の栽培、養蚕、蚕種、製糸が始まりました。

現在、鶴岡市を含む庄内地方は、国内最北限の絹の産地で、養蚕から絹織物まで一貫した生産工程が残る日本の唯一の地域です。「サムライゆかりのシルク」のストーリーは、 2017(平成29)年に日本遺産に認定され、2021(令和3)年に松ヶ岡は開墾150年を迎えました。

松ヶ岡開墾場

上巳の節句 ひし餅と雛あられ

 山田家では毎年33日の上巳の節句に合わせ、市内の菓子店で購入する練切の雛菓子の他に、三色のひし餅と雛あられを作りお雛様にお供えします。ひし餅の赤は食紅、緑は草餅で、白は最近はとち餅で作ります。ひし餅を切った余りの切れ端は、小さく切り乾燥させ、翌年の雛祭りの時に炒って雛あられにします。また山田家には一本のとちの木があり、千枝さんはとちの実のアク抜きからとち餅作りまでを全て自分で行っています。

山田家のお雛様 ひし餅と雛あられ

ひし餅と練切


雛あられ


春の彼岸 お膳とぼた餅

 松ヶ岡では、それぞれの菩提寺が異なるため、春彼岸のお供え物はそれぞれの家で違いますが、山田家ではぼた餅を作り、仏様にお膳をあげます。

ぼた餅


春彼岸のお膳


松ヶ岡開墾記念日 一汁一菜とかて飯

 4月7日は松ヶ岡の開墾記念日です。この日は朝から男衆が集まり地域内で一仕事します。男衆が戻ってくる頃、朝食にじゃがいもが入った「かて飯」と大根汁、おひたし等の「一汁一菜」を作ります。松ヶ岡の家庭のほとんどで、この日は質素な朝食をとることで、開墾当時の祖先の苦労をしのび、感謝するのだそうです。

かて飯と一汁一菜

端午の節句 笹巻と孟宗汁

 5月5日の端午の節句には笹巻を作ります。山田家の笹巻は、もち米を灰汁(あく)水に浸してそれを笹の葉で包んで茹でる黄色い三角巻の笹巻です。神様に供える笹巻には、よもぎの葉を添えます。また、御裾分けする笹巻にもよもぎの葉を添えます。

笹巻


神棚に供える笹巻にはよもぎの葉を添える


この頃、家の周りの竹林で孟宗筍がとれるため、孟宗汁を作ります。孟宗汁は鶴岡の全域で食べられる春を代表する郷土食で、孟宗筍の他にしいたけや油揚げ(一般的には「厚揚げ」のことを鶴岡では「油揚げ」といいます)を加え、酒粕と味噌で仕立てます。中に入れるものは家庭によって違いますが、山田家では孟宗、しいたけ、油揚げのみです。また、よもぎの葉を近所に摘みにでかけ、草餅を作ります。

 

よもぎ摘み


草餅


お盆

 旧鶴岡市内のお盆は7月13日に行われていますが、松ヶ岡では8月13日~16日に行います。仏様に、13日にあんこ餅、15日にざくびら、16日にお土産だんご等をあげます。 

十五夜、十三夜   いもごぼたもち

915日(旧暦の815日)頃の「豆名月(芋名月)」と呼ばれる十五夜に、「いもごぼたもち」と野菜や果物をお供えして、収穫を感謝します。また、1015日(旧暦913日)頃の「栗名月」と呼ばれる十三夜にも、「いもごぼたもち」と野菜や果物をお月様にお供えして、収穫を感謝します。

十五夜(芋名月)のお供え

 松ヶ岡は開墾した土地のため、昔はあまりお米がとれませんでした。そのため、お米に里芋を入た「いもごぼたもち」を作り、量を増やして食べていました。また、この「いもごぼたもち」を汁に入れて食べます。汁に入れる具は、各家庭で異なりますが、この「いもごぼたもち汁」は松ヶ岡の味として受け継がれています。千枝さんの家では牛蒡、豚肉、しいたけ、油揚げ、長ねぎをしょうゆと酒で煮たお汁に、「いもごぼもち」を入れていただきます。柿の収穫時期に収穫のお手伝いのまかない飯としてもお出ししていました。

 

山田家のいもごぼたもち汁


子どもたたちと一緒につくるいもごぼたもち


秋の彼岸  お膳とおはぎ

 春の彼岸同様です。山田家ではいつも子供たちと一緒に、お彼岸のぼたもちやおはぎを作ります。お膳には、秋の食材であるあけび料理があがります。

おはぎ


秋のお彼岸のお膳(あけび料理、おはぎ等)


子供たちとおはぎ作り

大黒様のお歳夜

 129日は大黒様のお歳夜です。山田家でもまっか大根(写真右上)と写真のお膳をお供えします。お膳には、ハタハタだけではなく、鮭や鱈の切り身も添えます。また豆腐の田楽など豆づくしの料理などが並びます。

大黒様のお歳夜についてはこちらをご覧ください。


大黒様のお膳

お正月 鏡餅と固く握ったおむすび

 山田家のお正月は鏡餅の準備から始まります。鏡餅とは別に固く握ったおむすびに箸を立てたものを準備します。これには、箸が傾くと不作になるということからしっかり固くおむすびを作るようにします。

鏡餅


神様にお供えするおむすび


おいしいと食べてくれる人がいるから

核家族化が進んでいる中ですが、松ヶ岡地区では三世代同居率は高いほうです。それでも、行事食を作って食べる家は年々少なくなってきているようです。山田家では子供たちと一緒に過ごす年中行事、そしてそれにまつわる行事食を大切にしてきました。千枝さんはいいます。「孫たちが『おいしいおいしい』と言ってくれるから作るなやの。郷土食の伝承に関しては、『おいしい』といって食べてくれる人がいなければ作らなくなるのは当然のことだの。」

子供の頃に食べたことのない食材や料理は、大人になってもその美味しさがわからないともいわれています。核家族が多くなってきている今、地域のおばあちゃんたちと子供たちが一緒に郷土食を作り、食べる場づくりが必要なのかもしれません。                                                       

   202322日取材   写真提供:山田さん



いもごぼたもち

 羽黒の松ヶ岡地区に伝わる料理です。十三夜、十五夜に「いもごぼたもち」と野菜や果物をお供えして収穫に感謝します。松ヶ岡は開墾した土地のため、あまりお米がとれなかったので、お米に里芋を入れ、量を増やして食べていました。

いもこぼたもち汁

いもごぼだもち汁の作り方はこちら・


 
 

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