鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.007 〜浜のアバさん〜
 
鮮魚カネツネ佐倉商店 佐藤倉子さん

「アバさん」、「浜のアバさん」と聞いて何を連想されるでしょうか?
「アバ」は鶴岡の方言で「おばちゃん」。そして、鶴岡の人は魚の行商をされている女性のことを、親しみを込めて「アバさん」と呼んでいます。
昔はリアカーを引いて行商することが一般的でしたが、今では、魚だけでなく、他の食材とともに冷蔵車で運搬する方もいらっしゃいます。
今回はいまなお元気に由良地区の町をリアカーでまわられている「アバさん」のもとを訪れました。

時折、海風が強く吹き付け、一段と気温が低く感じられる11月28日、佐藤倉子さんが営む「鮮魚カネツネ 佐倉商店」を訪れました。

  
82歳の倉子さんは、25歳の時から「アバさん」を始められ、以来57年間、由良地区をまわって魚の行商をされています。

魚屋さんを営みながら、市場のある翌日の朝から行商に行き、午後からは、魚を焼いたり、発送したり、お客さんの要望によって仕事をします。

 

行商に行く日は天候の影響を受ける漁次第ですが、だいたい週に2回程度出かけます。

水仕事が絶えない倉子さんは、早くも指にしもやけが出来、また長年包丁を握る手は、曲がってしまったと手をさすりながら見せてくださいました。
  
取材の合間には、お客さんや倉子さんのなじみの方々が訪れ、倉子さんと言葉を交わしていきます。
同級生だったり、隣人だったり、昔からの顔なじみだったり、それぞれの人に合わせて元気に笑顔でお話をされます。
 

17時から始まる市場にでかけるため、倉子さんは自転車で出かけます。
後ろの荷台には市場で購入するものを入れる空の発泡スチロールが5段積まれていました。

由良市場は、夕方17時から始まります。
市場には、今日獲れたばかりの魚が所狭しと置かれていましたが、この日は天候が悪く、お昼近くまでの漁だったため、これでも魚は少ないそうです。

倉子さんは、市場を回り、自分の買いたい魚に目星をつけます。
どの魚を買うんですか?と大きな声で聞くと、
 内緒。みんな買いたい魚を心に決めて、競り落とすのよ。
と小さな声が返ってきました。
 
右の写真は自分が心に決めた魚の競りが始まるまで、座ってアバさん仲間としばし休息中。

この日、倉子さんが競り落とした魚は、スケソウダラ、ハタハタ、サケ、口細カレイなど。
スケソウダラ6匹は、市場で内臓や頭を落として、翌日の行商に備えます。
冷え込む市場の中で冷水を使い、骨の固いスケソウダラの頭を切り落としていきます。
この日は19時に終了しました。
 
 

 

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翌日、倉子さんがリアカーを引いているところが見たくて再度伺いました。
リアカーでの行商は、保健所から許されているのは現在のアバさんの代かぎり。許可証の引き継ぎは許されません。そのため、古くから行われてきたリアカーでの行商は、現在のアバさん達が引退されると消えゆく運命にあるのです。


朝8:30に伺うと、行商の準備の真っ最中です。
お客さんも絶えずお越しになり、準備したものから売れていき、朝から倉子さんは大忙しです。
サケは半身ずつ、いくらも身とセットで販売。卵の大きい魚を見極めてセリで落とした
スケソウダラは、さばいてアラと身に分けられます。
ハタハタは重さごとにパックに入れ、檀家さん(お客さん)の気持ちになって買いやすいように準備されていきます。

発砲スチロールのケースの中には、倉子さんが「ユキ」と呼ぶ保冷用の氷が敷き詰められ、その中に魚がだいたい5キロずつ納まります。
1ケースの重さはおよそ6-7kg。この日は10ケースがリアカーに乗せられました。
60-70キロの荷物をリアカーで押し、由良の決まった檀家さんおよそ15軒を3時間かけて回ります。

檀家さんの玄関前で「○○さん、今日はごっつおある?」とたずねます。すると檀家さんはばたばたと玄関先に出てこられ、立ち話しながら、購入する魚を決めていくのです。
 
この日は、昨日大量にハタハタが獲れ、漁師さんが小さな売り物にならないハタハタをケースで由良の町の知り合いに配られたお話が中心。
「何ある?」とたずねるお客様に
「今日はハタハタしかねぇ(ない)。あとはスケソウ!」
倉子さんは、大きくて形の良いハタハタを見せ、大黒様(のお歳夜)にどお?12月に入ると卵が固くなるし、ハタハタも高くなるから今のうちに買って冷凍しておくといいよ。」と言いながら、魚を勧めていきます。

足が不自由で買物に行きにくいお年寄りの方には、今度焼き魚を持ってくるからと約束し、別のところでは、お歳暮に良いサケを1本送りたいと頼まれ、行商の品以外の注文にも応じます。
 
おしまいは「どうものー」と明るく呼びかけて檀家さんのお宅を後にします。

70キロの重さを体験したくて、リアカーを引かせていただいた。平地で引くと、意外に軽く移動しやすいものでした。
その持ちやすさの秘訣は、荷物の積み方。
右の図のように荷物の重心を後ろにずらすことがポイント。
 
ただ難点は上り坂。
実際上り坂はゆっくり一歩一歩踏みしめながら登られていました。

3時間の道のりで、休憩は2回。
知り合いの檀家さんの家の前に置かれた椅子と長い坂道を登り切った上にある石段の上で、ふーっと腰をおろしていました。
背筋もぴんとされ、テンポのよい会話、素早い暗算からは、ご高齢を感じさせませんが、それでも、アバさんのお仕事は体力的に厳しいもののようです。
 
倉子さんが、檀家さんを想い、それぞれの好みを把握して、市場で魚を仕入れてらっしゃいますが、檀家さんも倉子さんをいたわられているようで、道で出会えば声をかけたり、お菓子の差し入れをしたり、それは家族のようでした。ご高齢の倉子さんを支えられているのは、檀家さんのそういった想いなのかもしれません。
 
石段に腰を掛けて
もう少し暖かい季節は、ここで同年代の人が集まって立ち話したのよ。
と少しさみしそうにお話をなさっていました。
 
たくましく、頼もしく、そして人が大好きな倉子さん。そんなお人柄がアバさんを長年続けてこられた秘訣なのでしょうか。
 倉子さんにお会いすると、私も負けてられないと元気がわいてきます。
 
 
 今では珍しくなったアバさんですが、30代以上の地元の人にとって、想い出はいろいろあるようで、なつかしそうに口々に語ってくれます。
 
きっと倉子さんと同じように檀家さん想いのアバさん達のおかげで、今のように車の往来が盛んではない時代でも、海から離れた鶴岡市街地で浜の食文化が培われてきたのでしょう。


浜のアバさん

昔は、多かったアバさんも今では数少なくなりました。
魚をよく知るアバさんからの情報は確かなもの。
下の写真のハタハタも倉子さんのおすすめのとおり煮つけにすると身がとろとろと柔らかく絶品でした。
ぜひ幸運にも町でアバさんを見かけたら、新鮮なお魚を購入し、その調理法も相談してみてくださいね。

買えるところ 

 鮮魚カネツネ佐倉商店
 
TEL:0235-73-2232

おすすめの食べ方

ハタハタ料理は、湯上げ、焼魚などいろいろあるけれど、今の頃のハタハタは煮つけがおすすめ。身が固くならずおいしく食べられるから。大根も一緒に煮つけるといいそうですよ。
 

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