鶴岡の食文化を紡ぐ人々
No.012 〜孟宗〜
孟宗生産者 大井康博さん(湯田川温泉)
湯田川温泉は、孟宗産地の一つで、年間の中で最も観光客でにぎわうシーズンに活躍する生産者の方にお話を伺ってきました。

久々に暖かい晴天に恵まれた5月18日、例年であれば孟宗の最盛期に湯田川温泉を訪れました。
おじいさんの代から竹林を受け継ぐ大井さんは、孟宗生産に携わって50年。
この孟宗シーズンである5月の半ばともなれば、盛りを迎え大忙しとなるそうなのですが、こんなに不作の年は初めての経験とのこと。
すぐに思いつくのは、ここ最近の5月らしからぬ寒さが原因だと考えますが・・・

大井さんはおっしゃいます。
「孟宗の芽がこのくらい(親指くらい、右の写真参照)の時、9月ごろの猛暑で育たなかった。
夏の暑さのせいが強いと思うよ。
これから暑くなってきたすけ、もっとおっきなの(大きいもの)が出はったって(出て)いいんではないかと思うけど、それは出ねえ(出ない)と思う。
暖かくなってもミミダケだと思う。」
ミミダケとは、男性の手のひらサイズくらいの小さな孟宗のことを示します。
孟宗が出るには、
○冬の雪の量(水分)、○春先の暖かさ、○前年の夏の気温
が関係します。
雪の量は今年十分にあり、この数日は暖かく、それでも孟宗が出てこないのは、前年の夏の猛暑が関係すると考えられるそうです。
「孟宗掘りの始まった頃のあいさつは『まだミミダケだっけ』『おらえもだ』っだけど今年は未だにミミダケがでるもんなあ。」
今年の収穫量は例年の8分の1しかないそうです。
孟宗竹林の育て方

大井さんはおよそ18年前、柿畑から孟宗竹林とするため、6本の竹を移植したのですが、5本は枯れてしまい、1本の竹から竹林へと成長させたそうです。
敷地に根が広がり、立派な孟宗が収穫できるようになるまで15年の歳月がかかり、今も、根が深く直径が大きい孟宗を残し、親竹としてなるべく竹林を充実させるようにされています。

お客さんの声を聴きたい

大井さんの代になって出荷することは辞め、営んでいる建築業のお客さんに孟宗を分けています。
お客さんから下り孟宗(県外の孟宗)と違って、地元の朝掘り(朝掘ってから6時間以内)は新鮮でおいしいと言われる声が直接聞けることがうれしいそうです。
お客さんの中には大井さんの孟宗が柔らかすぎるという方もいらっしゃるそうで、お客さんの好みに応じて、根元の堅い部分を残した孟宗を配るなどの気配りをされているそうです。
孟宗の見極め方と保存方法
地面に孟宗の先があまり出ていないものは、掘り出すと皮の部分がピンクがかっています。湯田川温泉ではなかなか取れない高級品です。(下の写真参照)
また、皮の部分に黒ずみがなく茶色で、切断面が真っ白な孟宗が新鮮で柔らかいそうです。
根本が緑色になると固くなっている可能性が。
新鮮なものを美味しく味わうには、まず、すぐに茹でること。
大井さんは掘ったら30分以内にゆでるようにしていらっしゃいます。
魚より鮮度が落ちやすい孟宗は、手に入れたらすぐ皮をむいて茹で、孟宗が浸るまで水をはり冷蔵庫で保存すると約1週間は保存できます。
ポイントは水を変えないこと。水を変えると孟宗の温度が変わるので好ましくないそうです。

湯田川の名を高めていきたい。
湯田川神楽保存会会長で囃し手として活躍される大井さんに
「一度は見さ来い。」
と強く誘われました。
孟宗にも神楽にも情熱を注がれている大井さんはさらにおっしゃいます。
「(孟宗竹林を守っていくことは)先祖から与えられたこれは宿命。
ほったらかすと孟宗は手が付けられなくなる。
湯田川に生まれた。いいところさ生まれてきたのー。
春夏秋冬を楽しめっじゃん。
春になったら(人に)食べさせる喜びがでてくる。おらいの孟宗筍食ってくれって。
だから俺は先祖に感謝してるよ。いいところ見つけたのって。」
孟宗

鶴岡では朝掘りで売られていることが多く、米ぬかであく抜きすることなく、皮をむいてそのまま茹でても、いがらっぽくなく美味しくいただけます。
早朝から直売所で並ぶ光景は、春の湯田川温泉の風物詩です。

収穫時期 |
4月末から5月末 |
買えるところ | 湯田川朝掘り孟宗直売所(孟宗朝市)
湯田川温泉街のお店等でも販売されております。 |
食べるところ |
湯田川温泉旅館 等 |
おすすめの食べ方
大井さんのおすすめはやはり孟宗汁。干しシイタケのもどし汁と板粕(酒粕)をいれるのがポイントだそうです。
