鶴岡の食文化を紡ぐ人々
No.027 〜民田なす(みんでんなす)〜
民田なす栽培農家 長谷川精三さん
芭蕉も愛でた民田なす
「めづらしや山をいで羽の初なすび」と松尾芭蕉が出羽三山詣での後、鶴岡に滞在した際に詠んだ句にでてくる初茄子は、民田なすであると言われています。今回はこの民田なすを栽培している鶴岡市栃屋の長谷川精三さんを訪れました。
民田なす(みんでんなす)は、 鶴岡に古くから伝わる在来作物の一つです。早生系の丸なすで皮が堅いが、果肉のしまりが良いので歯触りがよく、多くは漬物の材料として使われています。 江戸時代、民田地域の八幡神社の社殿を作る際に京都の宮大工が種を持ち込んだと伝えられています。
芭蕉が滞在した長山邸跡にある句碑
元禄2(1687)年、7月26日(陰暦6月10日)に、松尾芭蕉は、出羽三山を詣でた後に鶴岡を訪れました。その時の句会で詠まれた句が 「めづらしや山をいで羽の初茄子」という一句です。この句にある初茄子は長山邸で芭蕉に出された民田なすと言われています。
民田なす
手のひらにのるくらい小さななす。 わずか8?15グラムが一番美味しい大きさだといいます。よくみるとへたの下が白い。この白い部分が一日で成長した部分だとか。
民田なすの向こうに見える金峰山
長谷川精三さんは7代目の農家。稲作を主に民田なすの他、枝豆、大豆を栽培しています。またキュウリとストックをハウスで栽培しています。 民田なすは20年くらい前に栽培を始めました。きっかけは、鶴岡市大山にある老舗「つけもの処本長」さんに漬物の材料として在来野菜である民田なすを栽培してみないかと勧められたことでした。それまでは、長者なすという普通の長なすを栽培していました。
数年前までは1,000〜1,200本ほどの民田なすを植えていましたが、年々歳をとり作業が大変になったことと、それまで奥様と二人で作業していたのが、都合により奥様の手が借りられず、精三さんお一人での作業となったため、今年は600本ほどの作付けをしました。
民田なすは、長さ3〜4センチ、15グラムほどの小さなものです。写真の右から二つは規格外の大きさとなってしまうとか。
夏の強い日差しを浴びて育つ民田なすは、1日収穫時期を逃すだけでひとまわりもふたまわりも大きくなってしまいます。
夏の強い日差しを浴びて育つ民田なすは、1日収穫時期を逃すだけでひとまわりもふたまわりも大きくなってしまいます。
規格品
8〜15グラムはA品。15〜20グラムはB品。 これ以上大きいと規格外となります。
規格外
20グラム以上あるものは商品にはならず、長谷川さんの家では、浅漬や素揚げ、煮物にして食べるのも美味しいと言います。
収穫はハサミを使わず手でもぎ取ります。
一般になすの収穫は、ヘタのところをハサミで切りますが、民田なすはハサミを使わず、一つ一つ手で収穫して行きます。 ヘタのところに指を添え、クッとひねるとポキッと良い音を響かせて民田なすがとれます。
収穫は6月中旬から遅いときは10月まで。毎朝2〜3時間かけて行います。成長が早いときは、朝と夕方と一日に2回、収穫する日もあるとか。これが大変だから、栽培する人がどんどん減ってきているんじゃないかなと長谷川さんはいいます。
連作障害があるので接木しても5年に一度作付ける土地をまわします。 昔の民田なすはせいぜい大きくても高さ1メートル位にしかならなかったが、現在は1.5メートル位になるとのこと。 昔は減反もなく、畑が今より少ない面積だったため、苗を密に植えていましたが、今は沢山植える場所があるので、連作障害を防ぐのと収量を増やすために植える間隔を広くしています。
収穫は6月中旬から遅いときは10月まで。毎朝2〜3時間かけて行います。成長が早いときは、朝と夕方と一日に2回、収穫する日もあるとか。これが大変だから、栽培する人がどんどん減ってきているんじゃないかなと長谷川さんはいいます。
連作障害があるので接木しても5年に一度作付ける土地をまわします。 昔の民田なすはせいぜい大きくても高さ1メートル位にしかならなかったが、現在は1.5メートル位になるとのこと。 昔は減反もなく、畑が今より少ない面積だったため、苗を密に植えていましたが、今は沢山植える場所があるので、連作障害を防ぐのと収量を増やすために植える間隔を広くしています。
もぎ方1 指を添える
もぎ方2 クッとねじるとポキッと音をたててとれる
種用に大きく実らせた民田なす
「昔から、こうして種用に大きく育てるんだ。その家その家で種を大切に残していくんだよ。それが在来野菜として残っていくんじゃないのかなぁ。」と長谷川さんは言います。
民田なすの花
「よく見てごらん。黄色いおしべにかこまれためしべの長さを見ると栄養が足りているかどうかわかるんだよ。」と長谷川さん。 めしべの長さが極端に短いと栄養が足りないとわかるそうです。
民田なすの浅漬
精三さんの奥様が作られた浅漬。この綺麗な色は民田なすならではといいます。噛んだときのシャキッとした食感と果肉のしまりの良さは民田なすの特徴です。
民田なすのへたには、刺がないので素手で触ってもチクチクしません。
現在、長谷川さんの民田なすはほとんどがつけもの処本長さんの漬物になるそうです。本長さんでは、長谷川さんの他に十数名の生産者さんに民田なすを作ってもらっています。
民田なすは、収穫期間も4ヶ月と長く、毎日収穫しないといけないので、生産者さんが年々減ってきているが、長谷川さんは自分ができる限り栽培していきたいと話していました。
(文・写真 俵谷敦子)
民田なすは、収穫期間も4ヶ月と長く、毎日収穫しないといけないので、生産者さんが年々減ってきているが、長谷川さんは自分ができる限り栽培していきたいと話していました。
(文・写真 俵谷敦子)
民田なす(みんでんなす)
鶴岡に古くから伝わる在来作物の一つで、早生系の丸なす。皮が堅いが、果肉のしまりがしっかりしており、噛んだときのパリッとした食感が絶妙。
浅漬、からし漬、こうじ漬、醤油漬などさまざまな漬物に用いられる。
浅漬、からし漬、こうじ漬、醤油漬などさまざまな漬物に用いられる。