鶴岡の食文化を紡ぐ人々
No.047 〜マコモダケ〜
上新田農事組合法人 板垣吉徳さん(鶴岡市長沼)
近年、秋になるとスーパーで見かける機会が増えた野菜の一つ、マコモダケ。実は庄内で作り始められたのは、ほんの15年ほど前で、それまではほとんど流通していませんでした。今回は庄内に入ってきた当初からマコモダケ栽培を行っている上新田農事組合法人の板垣吉徳さんにお話をお伺いしました。

板垣吉徳さん、板垣文幸さん
新しい特産品を目指して
稲刈りの終わった秋晴れの庄内平野。一面のたんぼの中に、よく見るとそんなに広い面積ではありませんが稲をうんと大きくしたような作物が植えられている場所があります。今回取材をさせていただいたのは、鶴岡市の藤島の温泉施設「ぽっぽの湯」がある長沼地域。農業の盛んな地域の一つです。ぽっぽの湯がオープンしたのは今から15年前の2001年。産直と食堂が併設されています。オープン当時の支配人が、地域として何か特産品を開発できないかと考えていた時に、農業新聞に掲載されていた「水田と同じ環境で育てることのできる作物・マコモダケ」の記事が偶然目に入りました。しかも、記事の舞台になっている場所が“長野県・長沼町”。これはうちの地域でもつくる事ができるのではないか、と早速長野から1株1000円の苗2株を支配人が取り寄せたのが庄内のマコモダケのはじまりでした。

ぽっぽの湯の産直でも人気商品の一つ
「当時1株1000円、配送料2000円で4000円だった。」と思い出しながらお話しいただきました。長沼地域では、長沼孟宗、すもも、伝九郎柿などいくつかの特産品がありましたが、新たな特産品を目指して作り始めることになりました。

マコモダケ畑を眺める
最初の2株は、支配人の知人であった吉徳さんと、もう一軒の農家で分け合って試験的に育ててみることにしました。水田をそのまま利用できたため、新たに導入するのには苦労しませんでしたが、作物としてはなじみのないマコモダケは、販売先を新規開拓しなくてはならなかったのと、集落の長老さんたちからは、水田の雑草のような姿に「何してるもんだか?」という声もあったと言います。上新田農事組合法人で販売を始めた年には、12株に増え、少しずつ納品先も増えました。
一番最初はぽっぽの湯の直売所をメインに販売をスタートし、その後、山形イタリアンレストランのアル・ケッチァーノや、地元のホテルや旅館など、販売先も徐々に増やしていき、認知度を上げていきます。ここ5年くらいで、旬である初秋になるとスーパーでも見かけるようになりました。

大きい稲のようなマコモタケ
マコモダケはタケノコ?きのこ?
はじめてマコモダケに出会う人は、どんな作物なのか、ほとんどの人が想像できません。マコモというイネ科の植物の根元にできる肥大した茎の部分をマコモダケと呼び、草丈は2m前後にもなります。中国や東南アジアでも広く食用として古くから親しまれており、マコモは古事記や万葉集にも登場します。マコモの茎の部分に黒穂菌(くろぼきん)が寄生し、ふくらんで太くなったところが食用になります。マコモダケはクセがなく、筍のような歯ざわりと、トウモロコシのような香り、ほのかな甘みが特徴です。
「どんな料理にも合うんだ~。」と吉徳さん。収穫時期が庄内では9月20日頃から10月いっぱいと短く、板垣さんの畑ではその期間は稲刈りの仕事に加え、朝仕事としてマコモダケの収穫をしています。

採れたてのマコモダケ
吉徳さんに、マコモダケの畑をみせていただきました。昭和54年から始めた上新田農事組合法人は吉徳さんの親父さんの時代から、3軒、4人で運営しています。作付面積29haのうち、マコモダケは5a。他には稲、玉ねぎ、スイートコーン、大豆等を育てています。大きい面積ではありませんが、「マコモダケを育て始めたのは庄内ではうちが一番早かった」と吉徳さんは語ります。現在はお隣に住む組合員で、農業に携わって7年目の文幸さん(34歳)と一緒に栽培・収穫をしています。

収穫する文幸さん
親からはいつかは継ぐもんだ、と言われていましたが、別の仕事に就くよりもなるべく早く農業に関わったほうがいいだろう、と従事することにしたと言います。文幸さんは「広く見れば農業に関わる人はそれなりに若い人もいるし、農業と言う仕事もやれば色々楽しみもあるなと思います。」と話してくれました。畑を見ながら、マコモダケ料理はどんなものが好きかお聞きしたところ「はじめて食べた時は、なんだこれ、って思ったけど、天ぷらで食べたら甘かったなぁ。かす漬とか油いためもうまいです。」と教えてくださいました。
身近な食材になりつつあるマコモダケ
旬になるとぽっぽの湯の食堂でマコモダケラーメンや、予約すればマコモダケ弁当など期間限定メニューが登場します。「昨日も食ってきた~。」と吉徳さん。お話を聞き始めたときは飄々とした感じでしたが、作物についていろいろお聞きしていると、おいしい食べ方や一番旬の時期、おいしさの見極め方など、やはりその作物について一番知識があるのは作り手なんだ、というところが印象的でした。

マコモタケラーメン
せっかくなので、取材後、マコモダケラーメンをいただきにぽっぽの湯に行ったところ、産直で自家用にマコモダケを購入するお客さんがいました。どこが購入の決め手かお聞きしたところ「歯ごたえと甘みがおいしいから時期になると買います。」と答えてくださいました。水田地帯の庄内平野。新米と一緒に、田んぼで作ったマコモダケ炒めをおかずにすれば、秋の庄内をシンプルに堪能できそうです。
(文・写真:稲田瑛乃)
(文・写真:稲田瑛乃)