鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.071 ヤマブドウ生産農家

 なんば農園 難波裕一さん 智恵さん

 
 
 
 
 

 秋、月山山麓を歩くと、赤く色づいた大きな葉に黒く実った野生のヤマブドウが自生しているのが目に留まります。旧朝日村地域では現在5060人が、鶴岡在来作物の一つであるこのヤマブドウを栽培しています。その中でも、独自の形でヤマブドウを販売しているというなんば農園の難波裕一さんを訪ねました。

ヤマブドウの収穫をする裕一さん

ヤマブドウの栽培の歴史

 ヤマブドウは古くから日本に自生していたものとされ、奈良時代の遺跡からヤマブドウの種子が沢山出土しています。このヤマブドウの栽培が日本で本格化したのは1960(昭和35)年代に入ってからで、北海道の池田町がヤマブドウを原料にしたワインを作り始めました。その後1975(昭和50)年に、旧朝日村(現鶴岡市朝日地域)でも、旧村民の希望により「山ぶどう原液」の加工販売を始め、1980(昭和55)年には、旧朝日村農業協同組合(JAたがわ農協)の月山ワイン山葡萄研究所で、ヤマブドウを原料とした「月山ワイン※」が発売されました。


 ※「月山ワイン」の歴史については「月山ワイン山ぶどう研究所」をご覧ください。


収穫を待つヤマブドウ

ヤマブドウの使用方法と販売方法

 なんば農園では、裕一さんの祖父の代の1975年頃に、山で自生していたヤマブドウを自分の畑に植えたことから栽培が始まりました。ちょうど旧朝日村をあげてヤマブドウの栽培を始めた頃です。

しかし最初の10年間はヤマブドウの実がならずに、試行錯誤の連続だったといいます。後にヤマブドウは一般のブドウの品種と違って、雄木と雌木の存在があることがわかりました。一般のブドウの品種は木が一本しかなくても自分自身の花粉で受精して実がなりますが、ヤマブドウの場合は雌の木の花の雌しべに、雄の木の花粉を受粉してやる必要があります。なんば農園ではかつて、人工授粉も試みたそうですが、現在はこの雄木と雌木の配置を工夫しながら自然受粉にて栽培しています。圃場を歩くと、一段高いところに並びに対して雄木を垂直に植えてあるのがわかります。しかし、雌木と雄木の花の咲く時期がずれると自然受粉がうまくいかないため、その時は人工授粉をする場合もあるとのことです。

横に植えられている雄木

 なんば農園ではヤマブドウの他にお米も作っています。実はヤマブドウは作らなくてもよかったのだけど、裕一さんの祖父があまりに一生懸命苦労して栽培していたので、その気持ちを繫いで育ててきたとのこと。


この地域の冬は雪深いため、ヤマブドウの栽培は、雪が降る前に剪定を終わらせ、圃場のワイヤーを下す11月下旬と雪がとけた3月にワイヤーを上げるのですが、その作業が一番大変だといいます。

収穫したヤマブドウ

 現在、朝日地域全体でヤマブドウを栽培している人のほとんどが庄内たがわ農業協働組合へ「月山ワイン」の原料として出荷しています。しかし、ワインの原料となるヤマブドウには糖度が最低でも1725度必要といわれ、なんば農園のヤマブドウの糖度は15度前後と低いため、ワインの原料としては向きませんでした。しかし、「ヤマブドウ原液」を作ったところ、その栄養価が注目され、ぜひ使いたいという声を全国各地からいただくようになり、裕一さんはワインの原料として出荷するのではなく、「山ブドウ原液」を作り、それを出荷することにしました。また「ヤマブドウ」を直接使いたいという方には、生の「ヤマブドウ」を直接販売しています。

 

「山ぶどう原液」

地域への貢献と収穫イベント

 なんば農園では2012(平成24)年に鶴岡食文化女性リポーター(※)に参加してもらい首都圏からのツアー「鶴岡伝統作物に出会う旅」を実施しました。これにより地元の宝としてのヤマブドウの認知度が向上しました。ちょうどこの頃からヤマブドウの収穫体験を定期的に始め、それは今も続いており、地元だけでなく首都圏からも毎年参加を楽しみにしている人がいるといいます。中にはなんば農園のヤマブドウでないとダメだというお客さんもいるほど。


※鶴岡食文化女性リポーターとは2012(平成24)年~2014(平成26)年まで鶴岡の食文化の魅力を掘り起こし、SNSなどで発信する活動をしていました。

2012(平成24)年食文化女性リポーターのツアー

これからの展望

収穫のイベント


裕一さんの孫娘


 今年開催された収穫イベントに参加してみると、裕一さんの孫娘まで一家総出で対応していました。そして収穫後の交流会では、裕一さんの奥さんの智恵さんお手製のお弁当や近くの山でとれたきのこで作ったきのこ汁がふるまわれ、参加者の皆さんがそれをとても楽しみにしている様子が伝わってきました。智恵さんの手作りお弁当は市内の私立高校の野球部の寮生へ毎日提供しているとのこと。親元を離れた若い学生さんたちに鶴岡の食材を使ったお弁当を食べてもらいたいという気持ちが、雪の日も毎日お弁当を届けるというパワーの源になるそうです。

 

ヤマブドウ収穫のイベント


ヤマブドウ収穫イベント(お昼)


 また今年度は本市で開催された次世代料理人コンペティションに挑戦した料理人にヤマブドウを食材として提供しました。裕一さんと智恵さんはヤマブドウを地域の宝として、その特性を活かしながら、新しい取組にも積極的に挑戦しています。「本当は作らなくてもいいと思っていたヤマブドウ。その栽培には手間もかかりますが、その価値が地域内外の人に認められ、楽しみに毎年待っていてくれるのは本当に嬉しいことです。自分たちもまた、ヤマブドウを使った次なる挑戦を通して皆さんとの交流を楽しみにしています」。裕一さんと智恵さんは自家製品の開発の中でいつもワクワクを探しているのだそうです。 

 

智恵さんの手作りお弁当


きのこ汁


2023年10月5日取材 


参考動画  

山が私たちを形づくる -なんば農園- 出羽三山「生まれかわりの旅」

なんば農園 


参考資料 「やまぶどうのはなし山形大学農学部果樹園芸学分野(2013)


参考サイト ヤマブドウ原液



ヤマブドウ

 古くから果汁をしぼって滋 養強壮のために飲用されてきた。また、ヤマ ブドウのつるや樹皮は縄作りや蔓細工 の材料として利用されてきた。ワイン の原料や果汁としての利用のほか、ジャムやフルーツソースなどの加工品にも利用されている。

ヤマブドウ

なんば農園 

鶴岡市大針字沖ノ前43

TEL 0235-53-2184

 (8:30 〜 17:30)

 
 

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