鶴岡の食文化を紡ぐ人々
No.074 産直あさひ・グー
店長 佐藤照子さん
産直あさひ・グーの設立
「観光客が訪れるだけでなく、地域の人が山菜などの加工ができる施設があればいい」という地元の声を取り入れ、旧朝日村が産直施設をつくることを決めたのは2001(平成13)年。その後、地域の農業振興を目的として旧朝日村直売施設管理運営組合が2003(平成15)年に設立しました。旅館であった建物を改装し、公設民営方式で委託を受けて、翌2004(平成16)年の5月に産直あさひ・グーがオープンしました。
朝日地域は山間部に位置するため、この産直の目玉は、なんといっても豊かな山の恵みでしょう。春、雪が解け始めると、様々な天然の山菜が所狭しと並べられます。秋にはなめこや舞茸だけではなく、ここでしか手にはいらないようなきのこが並びます。
「設立当時、冬期間に何を提供するかという大きな悩みがありました。ここは雪深い地域なので、生鮮品で売るものはないのです。そこで施設内に加工場を作り、漬物、惣菜や豆腐などを販売することにしました。また食堂を併設し、うどんや蕎麦を提供しました」と、店長の照子さんは振り返ります。産直あさひ・グーでは、その後も加工品の充実に注力して、とちもちや笹巻、お弁当なども販売しました。また、ご飯類やラーメンを提供して欲しいという声にも対応し、来客数を増やしてきました。
やまのごっつぉまつり
朝日地域には、自分で加工設備を持っている人もいますが、ここの会員になれば加工施設を利用でき、情報交換もできます。そんな中、朝日地域に伝わる食文化を地域産業に結びつけようという目的で、2011(平成23)年3月に「やまのごっつぉまつり」がスタートしました。
「最初は年に2回の開催でした。それから今まで開催しなかった年はありません。新型コロナウィルス感染症が流行したときも、回数を少なくし、テイクアウトにより開催しました。その甲斐あって今では、『産直あさひ・グー』といえば『やまのごっつぉまつり』とまでいわれるようになりました。「『懐かしい味』と言って一人で何十皿も購入して帰られる方もいるんですよ」と照子さんは嬉しそうに話します。
朝日地域は広いので、地域ごとに受け継がれてきた食文化があるため「やまのごっつぉまつり」では、受け継がれてきた自分たちの料理を披露し、どうしたらお客さんに喜んでもらえるか毎回、情報交換もしているとのこと。
「国道112号線沿いということもあり、内陸や仙台方面、そして酒田市や遊佐町からのリピーターも増えました。また、東京や大阪など県外への発送も多くなりました。都内にある『おいしい山形プラザ』にも出荷しています」。
「高速道路が開通してまもなく、東日本大震災があり、その後高速道路が無料化になったため、国道112号線の通行量が減り、涙がでるほどお客さんが来ない時期がありました。でも今は、わざわざここで一度高速を降りて来てくれます。また地元の人も、食堂を利用してくれます」。
朝日らしい食文化の継承
当時50歳代だった会員さんたちも、今では70歳を超えました。「昔からある朝日の食文化を途絶えさせないで伝えていくには、女性ががんばっていかなくてはいけないと皆に声かけをしています。でも会員さんが減っていくのは悩みのひとつです」照子さんの表情が曇ります。オープン当初の会員は、76名でした。20年後の現在の会員は66名(地域外の準組合8名を含む)となっています。 3世代同居率が多いといわれているこの地域でも、若い人が減り、さらにその若い世代にどうやってこの産直をつなげていくかが課題とのこと。
「この会員さんたちは、自分たちが育てたものを売るために、ここを活用しています。そして、ここで様々な情報交換をすることで互いに勉強し切磋琢磨しています」。夏にこの辺りで多く栽培されている在来野菜の「沖田ナス」は、生でも販売されますが、地域のお母さんたちが作る「沖田茄子の浅漬け」は、作る人によって微妙に味も異なるため、お気に入りの生産者さんのラベルを見て購入している人も多いのだとか。漬け物だけではなく、お弁当や加工品も同様です。
産直あさひ・グーでは、蒸したまごや煮豆などの郷土料理も並びます。また、とちもちや笹巻(※)も年中手に入れることができます。山菜は春でなくても、乾物や塩蔵品の保存食として提供しています。これらの保存食はていねいに時間をかけて作られたものです。先人たちの知恵が今もここで受け継がれているのです。
今、最大の課題は、施設の移転に向けて、地域の声を反映させながら模索しているとのこと。産直あさひ・グーは女性が地域活性の中心となり、朝日地域の食文化を支え、地域の課題と向き合いながら新たな時代へと日々向き合あっています。
2023(令和5)年12月7日取材 文・写真 俵谷敦子
朝食を提供する食堂「朝めし膳」
「あたりまえのご版をちゃんと食べてほしい」という思いから、食の安全安心を考えた循環型の農業を目指して五十余年。その小野寺家の自家栽培米を毎朝炊き上げて提供する朝ごはん。
産直あさひ・グー