鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.064  鶴岡No.1次世代料理人決定戦 

 初代グランプリ  齋藤 翔太さん(庄内ざっこ)

 先月開催された「鶴岡No.1次世代料理人決定戦」。今回は、ピンと張りつめた空気が漂う中行われた大会の様子と、初代グランプリに輝いた齋藤翔太さんが大会を終えて感じること、鶴岡の料理人としての思いを取材しました。

鶴岡No.1次世代料理人決定戦 グランプリ 齋藤翔太さん

緊張感漂う中開催された初めての大会

2020年2月18日午前10時。鶴岡No.1次世代料理人決定戦の会場の厨房。タイムキーパーの「調理を開始してください」という声が響き、料理人の次世代リーダーを輩出する戦いの火蓋が切られました。ピンと張りつめた空気が漂う中で、包丁の音が響きます。


共に戦ったファイナリストの6名

上段左から 
本間和博さん(鶴岡料理すず音)、木村英之さん(ベルナール鶴岡)、渡部賢さん(日本料理わたなべ)
下段左から 
須田剛史さん(魚匠ダイニング沖海月)、齋藤翔太さん(庄内ざっこ)、遠藤亮さん(鶴岡協立病院)
 調理の持ち時間は90分。6名のファイナリストたちが順々に調理を行い、その様子を11名の審査員が鋭いまなざしで見つめます。出来上がった料理は別室に運ばれ、審査員による試食・プレゼンテーション審査へと移ります。「技術面」だけではなく、「創造性」や次世代リーダーとして鶴岡を発信していく力があるかなどの「将来性」も評価項目に含まれます。調理開始から緊張しっぱなしだったファイナリストたち。審査会場から戻った瞬間少しだけ張りつめた糸が緩みます。

真剣なまなざしで調理を見つめる審査員

 午後からは事前に申し込みのあった市民100名の観覧者から抽選で選ばれた6名が市民審査員として試食・一番美味しかった料理に投票し、事前集計された大会審査員の投票点にその点数が加点され最終結果が出されました。
 100名の観衆が息を飲む中、栄えある初代グランプリに輝いたのは庄内ざっこの齋藤翔太さん。名前が呼ばれた瞬間、大きな歓声・拍手で会場が包まれました。

グランプリ決定の瞬間

料理人になった原点は「家族」

 見事グランプリに輝いた翔太さんにお話を伺おうと、後日改めてお店を訪問すると、店内にはお祝いのお花やお酒がずらりと並んでいました。お子さんが通う保育園の先生や保護者、お客様からもお祝いの言葉をいただいたり、仕入れで通う産直ではフリーペーパーの記事を貼りだしてくれたそうです。反響の大きさに「とんでもない事をしてしまった」と思ったそうです。マスコミに取り上げられたことで、仙台にいる修業時代の先輩からもお祝いのメールがあったことがとても嬉しかったといいます。

兄弟・家族で支えあう [チーム・ざっこ]

 翔太さんが働く「庄内ざっこ」はご両親・兄弟とその奥様、ご家族で営む日本料理のお店です。両親がお店を開いたのがちょうど30年前。自分も中学生になると、下校後に手伝いをするのが当たり前になっていて、その頃から自然と『将来は料理人になる』と決めていたそう。幼い頃から家族で色々なところに食事に行くことが多かった事も料理に関心を持つきっかけになったといいます。

 18歳で仙台のホテルに就職、日本料理の世界に飛び込みます。修行先の親方は[ザ・職人]という厳しい人。それでも持ち前の明るさで先輩たちには可愛がってもらったのだそうです。

 今回の大会への出場のきっかけを伺うと、「誰か出てみれば?」というお母様の一言だったのだとか。「出てみようかな~」と手を挙げたのが3兄弟の末っ子 翔太さんでした。

地元の人が慣れ親しんだ食材に込めた思い

大会で披露した料理

「豊食を繋ぐ」 ~口細カレイの包み焼き やさしいソースで~
 今大会で披露した料理の主役には口細カレイが使われています。

「高級な食材は使いたくなかったんです。鶴岡で普段から食卓に上るものを使いたくて。他にも在来作物であるズイキ芋やごはんのおともとして馴染み深い醤油の実を使いました。料理のイメージ、使う食材はパッと浮かんできたんです。

 試作を重ねていくことで料理にどんどん思いが詰まっていったそうです。誰でも食べやすいようにカレイは三枚におろし、中骨で出汁を取ったり、ヒレの部分は別で揚げたり、食材も捨てるところなく使います。家族を思い、料理を作る鶴岡のお母さんたちの手仕事からもヒントを得たそうです。地元に根付いた郷土料理を料理人としてしっかり理解し次世代に繋げていきたい、そんな思いもこの料理には込められているのだとか。こうして鶴岡で育った人にはどこか懐かしく、鶴岡の食を知らない人には新しい料理が完成しました。
  普段から漁師さんや生産者さんとの交流を大事にしている翔太さん。作りながら底曳き網の漁師さんや農家さん、皆さんの顔が浮かんできたといいます。一方、締切ぎりぎりまで悩んだのが料理名だったとか。[豊食]は、鶴岡の豊かな食材や食文化の意味を込めて付けたのだそうです。

鶴岡の食の魅力を発信していくこれからの料理人たち

 鶴岡の魅力は[海も山も近い][食材が豊富][人がいい]それに尽きると翔太さんは言い切ります。食材や生産者に感謝して、その思いを食べる人に伝える懸け橋になりたいと思いながら料理をしているそうです。

 「食材を美味しく料理すれば漁師さんや農家さんからも、食べたお客さんからも[ありがとう]といわれる、これが料理人冥利に尽きる、それが楽しい。もっと生産者と繋がって盛り上げていきたい、いつかは独立してお客様とお話しながら料理を提供できるお店を持ちたい」と夢も語ってくれました。 

 鶴岡市がユネスコ食文化創造都市となって以来、翔太さんは市の料理人研修派遣制度を利用してスペインのバレンシアでの料理イベントに参加したり、来鶴したイタリア人シェフとの料理セッションを経験したり、海外との交流の場に積極的に参加しています。言葉が通じなくても料理で分かり合えることを実感し、とても刺激を受けていると言います。その中で食材や調理法の説明をしながら料理を作る外国人シェフたちに衝撃を受けたそうです。「自分は典型的な日本人で黙々と料理に没頭してしまい上手くPRができなかった。これからの料理人はそういう面も求められると思った」と振り返ります。

海外との交流の場にも積極的に参加(スペイン・バレンシア)

 もう一つ翔太さんが大事にしているのが、市内の料理人との繋がりです。鶴岡の食材に惚れ込んでこの土地で飲食店を営むジャンルを超えた先輩料理人たちと共有する時間はとても大切なものなのだとか。共に学び高め合う仲間がいるという環境が今回のグランプリにも繋がったのかも知れません。 
 
 実は取材日の前日、決勝戦で戦ったメンバーと杯を酌み交わしたそうです。それぞれ働く環境の違う料理人たちですが、決勝戦での緊張感を共有した者同士、大会の時の話やこれからのことを話せたのだそう。鶴岡の食のこれからを担う同志として新しい繋がりが出来たことも戦利品のひとつだったのではないでしょうか。今大会でファイナリストの6名にはユネスコ食文化創造都市のマークが刻まれたコックコートが贈呈されました。この大会をきっかけに若い料理人たちが切磋琢磨し、鶴岡の食を盛り上げてくれるでしょう。
 (写真・文 山口美和)

鶴岡No.1次世代料理人決定戦

「鶴岡の食」を全国に向けて発信できる次世代リーダーを輩出するために2019年度に初めて開催された料理人の大会。第1回大会には17名の応募があり、書類選考を経て選出された6名のファイナリストによる決勝大会が2020年2月18日に開催された。市内調理師会の代表や首都圏から招いた料理業界の著名人など審査員11名による厳正な審査と抽選により選ばれた市民審査員6名による試食・投票が行われた結果、4名が入賞した。

グランプリ  齋藤翔太さん(中央)

準グランプリ 須田剛史さん(左)

       木村英之さん(右)

審査員特別賞 遠藤亮さん


大会の模様はこちら

齋藤翔太さんの所属するお店
[庄内ざっこ]
山形県鶴岡市本町一丁目8-41
TEL  0235-24-1613

大会で披露した料理はご予約の場合のみ対応しております。

 
 

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