鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.006 〜たんぼの黒豆〜
 
加工クラブあお空 代表 成沢久子さん

「在来作物」という言葉をご存じでしょうか?
鶴岡の食文化では欠かせない言葉ですが、改めて説明いたします。
ある地域で世代を超えて栽培者自身が自家採種などによって栽培・保存を続けながら生活に活用してきたものを「在来作物」と定義されています。
(引用:山形在来作物研究会の定義)
 
今回は、鶴岡の在来作物で藤島地区の「たんぼの黒豆」をご紹介します。
エプロン姿でにこやかに登場された成沢さん。
そのお姿からフットワークの軽さとテキパキお仕事をこなされるであろうことが優に想像できます。
秋は収穫祭など多くの行事が重なり大変お忙しいなか、取材に応じてくださいました。
今朝も8時30分にマイタケおこわを産直に出してきたんだとか。

おもむろに封筒からざざっと取り出されたものは、昨年採れた「たんぼの黒豆」。
一目で、普段スーパーなどで目にする「黒豆」とは異なるものです。
平べったくて、ふちが少しとがり、鈍く黒光りする様は、まるで豆型の碁石のようです。
成沢さんがおっしゃるには
「この黒豆は交配しやすくて、すぐに戻るの。栽培は容易でねぇ。(簡単ではない)」
 
成沢さんの畑では交配を防ぐため、他の豆は植えないようにしているそうです。
この管理が大変であるため、栽培者が少なくなっており、現在、藤島地区で「たんぼの黒豆」を栽培されている方を成沢さんはご存知ないとのことでした。

最近、曇り空や小雨が続くため、刈り取られた「たんぼの黒豆」は畑でシートをかけられ、天気のいい日を待っていました。
黒豆は天気のいい日に天日干しをして、脱粒機にかけ、採取します。
その昔は、天日干し後にサヤを棒でたたいて落ちた豆を採取していました。
 
 

そして、植え方も昔と今とでは異なっています。
  
昔は水苗代と呼ばれる苗を植えるたんぼの畔(あぜ)にこの黒豆を植えていました。
水苗代の水分と肥料をうまく生かし、水やりも肥料もやらない実に合理的な栽培法です。
また、交配しやすい黒豆は、まわりにイネしかない環境で栽培されることで、その種を守ってきたのです。
  
イネの育苗法として、水苗代に種籾をまき、苗を育種する方法は、気象条件に左右されやすいため、今ではハウス内で育種する方法が主流となっています。
そのため、この黒豆の栽培も衰退していったと推測されます。
  
成沢さんのお宅でも水苗代はないため、ハウスの傍らの畑で、「たんぼの黒豆」を栽培されています。
もともと病害虫に強い種のようで、農薬等はいっさい使用せず、肥料もほぼ施さずに栽培されます。
  
在来作物の栽培法も少しずつ現代にあわせて変わってきているんですね。
種の採種も、もちろん成沢さんがされます。
種として残すポイントは、3つ。
1.種が大きいこと
2.平べったいこと
3.しわや傷がないこと。

今年の収量はまずまず。だいたい全体の収穫量3-4升のうち1升くらいを種用として保存します。
種は、藤島地域の宝。
他県から譲ってほしいという方は多いけれど、受け継いできた地域で大切に守っていきたいとの思いがあります。
 
 
成沢さんはこの黒豆の利用法にとてもこだわりがあるようです。
調理法を3品教えていただきました。

●黒豆なます
●黒豆ごはん
●けのこ汁
 
まずは、鶴岡で行われる伝統的な行事、大黒様のお歳夜(12月9日)※にいただくお料理である黒豆なますと黒豆ごはん。
 
 
黒豆なますの作り方
①黒豆をかなづち(成沢さん曰く「とんかち」)でたたき、ヒビをいれる
②大根をすりおろし、その大根の汁に黒豆を入れ、さっとひと煮立ちする。
(黒豆の鮮やかな紫色を引き出す作業。煮過ぎると色が豆の中に戻ってしまう)
③砂糖と酢を混ぜた大根おろしに、②の黒豆を合わせてできあがり

黒豆ごはんの作り方。
①黒豆を煎る
②うるち米と黒豆で炊く
 

最後に、1月2日に食べられている「けのこ汁」。
これは、2日の朝、おかゆとけのこ汁のみで食べられています。
昔は、お嫁さんやお婿さんがこれを食べ、お腹を空かせて、実家に帰り、実家でごちそうを食べていたそうです。
成沢さんも、昔はこの汁を食べて実家に帰り、1月5日か6日まで実家で静養されていたそうです。
「嫁は7日帰りはしないものだと言われたんだ(1月7日まで長く里帰りはしない)」と笑っておっしゃっていました。

素晴らしい料理の腕前をもつ成沢さんは、1年に2-3度、町内会で料理教室の講師をされています。
手間がかかり、若い世代には作られることが少なくなった大黒様のお歳夜の料理も、教えられています。
成沢さんはおっしゃいます。
「行事食を知ってほしい。素朴だけどおいしい。歳をとると煮物が恋しくなるのよ。必ず煮物に落ち着くのよ。」
 
下の写真は、たんぼの黒豆の味が知りたくて、成沢さんから分けていただいた煮豆です。
口に広がる心地よい甘さと甘味をひきしめる塩気、そして味付けに負けない豊かな豆の風味。
ふだん口にするねっとりした食感の黒豆とはまた一味違うしっかりした噛みごたえ。
 
あんな風に豆を煮ることができたら、どんなに魅力的な女性になれることでしょう・・・。

成沢さんは誇らしそうに教えてくださいました。
うちの嫁は、他県の出身だけど、成沢家の味を守り、大黒様のお歳夜には黒豆ごはんを作ってくれる。
息子は小さなころから見てきているから、その時が来たらきっと黒豆の栽培を引き継いでくれるはず。
 
先祖から引き継いだものは受け継いでいきたい。
在来作物も一家に伝わるお料理も代々受け継がれ、リレーのバトンようにつないでいくものなのだと改めて感じました。
そして、バトンを受け取り、手渡していくことを願ってひたむきに栽培や料理を続けられている成沢さんのような方々によって鶴岡の食文化は守られてきたのです。
 
伝統行事をしっかりと重んじられている成沢さんですが、お会いした印象は軽やか。
伝統料理の教室で、若い人からエネルギーをもらっているのよと若い世代の考えにも柔軟な方なのでした。
  

※ 大黒様のお歳夜
この日は、大黒様が妻を迎える夜とされています。
黒豆料理と大根料理を食べて、豊作と子孫繁栄を祝います。豆と大根は畑作物の代表であり、それらを供えることは大黒天を農神として信仰していることを示しています。
今も鶴岡の暮らしに息づいており、各家庭で伝統料理を作られたり、スーパーの仕出しコーナーに並ぶ伝統料理を買い求めたりされています。
 
(参考資料)
おしゃべりな畑 山形在来作物研究会編
つるおかおうち御膳 鶴岡市他編

たんぼの黒豆

特に名前がなく、昔からたんぼの畔に植えていたため、「たんぼの黒豆」と呼ばれていました。
扁平な形で煮てもしっかりした噛みごたえと味の濃厚さが特長です。

収穫時期

豆の収穫時期
10月末から11月初め

買えるところ  加工クラブあお空として黒豆料理を12月頃販売
 
四季の里 楽々(らら)
 
TEL:0235-78-2520
藤島ふれあいセンターエーブル21
TEL:0235-64-4230

おすすめの食べ方

鶴岡の伝統料理に欠かせない黒豆。
成沢さんのおすすめは煮豆。
煮ても、歯ごたえがあり、濃厚な豆の味が楽しめます。

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