鶴岡の食文化を紡ぐ人々
No.010 〜ひな菓子〜
セレン ドゥ つるや 社長 富樫信雄さん(千石町)
鶴岡では、旧暦で祝われることが多く、いたるところで、雛街道と称し、古くから伝わる雛人形が展示され、多くの人でにぎわっています。
この雛人形に欠かせないのが、鶴岡独特の愛らしいひな菓子。菓子職人にお話を伺ってきました。
ここ鶴岡では、西暦と旧暦でお祝いするご家庭が異なるため、ひな菓子作りのピークも3月3日と4月3日の2回あるそうです。
ひな菓子製作の忙しい時期を過ぎた3月4日、セレン ドゥ つるやさんを訪れました。
社長の富樫信雄さん、83歳。
昭和28年(1953年)からこの道に携わり、約60年間、菓子製作に携わってきた職人さんです。
お酒が一滴も飲めない富樫さんにとって甘味は大好物。
菓子職人になると決意したのも趣味の延長線上だったと笑いながらおっしゃいます。
長年の優れた技能が認められ、平成24年度鶴岡市卓越技能者賞を受賞されました。
鶴岡のひな菓子 昔と今
鶴岡のひな菓子は、北前船で運ばれてきた京都の文化に由来する伝統的なお菓子です。
昔は、盛り菓子(下の写真)と呼ばれる日持ちがする干菓子や飴細工が主流でした。
しかし、昭和27-28年ごろから、食べておいしい生菓子が作られるようになり、富樫さんのお店でも、盛り菓子は展示だけで、生菓子のみ販売されています。
生菓子の主な原料は、外側の白あんと内側のあずきあんです。
富樫さんのこだわりは、全体的な並べる菓子の色とバランスです。
お膳のつややかな菓子たちはどこかユーモラスで、まるで色とりどりのおもちゃのようでした。
残していくもの、変えていくもの
ひな菓子は地元の特産物を中心に様々なものが模られています。
鶴岡では、広大な平野、山、海のおかげで、豊富な特産物に恵まれ、多種多様なひな菓子のモチーフが登場します。
中でも目をひくのが、地元で古くから親しまれてきた在来作物。
漬物として利用される丸くて小さな民田なす。緑と黄色のまだら模様でぽってりとした形の外内島きゅうり。
今は食べる機会が少なくなってきた野菜たちも、富樫さんのひな菓子では定番です。
店頭の販売を担当されている富樫さんの奥様はおっしゃいます。
「若い方達は仕事を持っているでしょ。
雛人形を飾るのは、主に年配の方の仕事であり、楽しみなの。
人形を飾られた方がひな菓子を購入されることが多いから、お客様は年配の方が多いよの」
古くから受け継がれてきたひな菓子ですが、時代に合わせてモチーフも変えてこられました。
例えば、さくらんぼやダダチャ豆も、近年作り始めたものです。
今年は新たにスイカを取り入れられました。新たな菓子を製作する時には、実物を見て研究して作っていくのだそうです。
「皮にもこだわったんだ」
と富樫さんは、置かれているひな菓子の底をそっと見せてくれました。
ひな菓子のスイカの皮目は黄緑と濃い緑の縞模様になっていました。
さらに、昨年から、味にも変化を加えています。
いちご、柿、みかん、りんごの菓子にはそれぞれのシロップで味付けしたあんを用い、また栗には栗あん、はまぐりにはあおさをいれる工夫しています。
その理由は
(お客様は)そのものすばりの味が好まれているから
だそうです。
ひな菓子の形ができあがるまで
創業当時からある菓子の型。約60年の歴史があります。
型はしっかりとなめらかな木肌に、タイのうろこなどの繊細な彫刻が施されています。
また、昔は型を作る型屋という店が鶴岡にあり、そこで型を製作してもらったそうです。
以前は、タイや鶴、亀などを模った生菓子が結婚式の引き出物とされたため、多くの型が必要でしたが、今では、その慣習がなくなり、ひな菓子の時にのみ型を利用されています。
お話を伺っている時は、柔和な空気をまとった方でしたが、作業場で入られた途端ピリッとした職人のお顔に一変されたのが印象的でした。
この時期は、様々な種類のひな菓子を作れるので楽しんで作業されているそうです。
特に富樫さんのお気に入りはアケビ。色と形が好きなんだそうです。
ひな菓子を通して、職人の巧みな技術、お客様への想い、遊び心をぜひお楽しみ下さい。
ひな菓子
主に鶴岡の特産物を模った愛らしいひな菓子は鶴岡独特のものです。
雛祭りを通して子供の健やかな成長を願う気持がこめられたお菓子です。
ひなまつり期間中には、多くの和菓子を扱う菓子店やスーパーなどで販売されています。
女性や子供だけに好まれているかと思いきや、意外に男性ファンも多いようです。
収穫時期 |
販売時期:2月下旬から4月3日くらいまで
ただし、お店によっては、期間中常時販売しているわけではないので、事前のご確認が必要です。 |
買えるところ | セレン ドゥ つるや
鶴岡市内の各菓子店でも販売されております。 |
おすすめの食べ方
富樫さんのお店の一番の売れ筋はタイ。
タイとサクラマスの切り身のセットをお客様がよく買っていかれるそうです。
ひな菓子は、食べてもおいしいですが、雛人形のお供え物です。
鶴岡では、雛人形に毎日、お膳やお茶をお供えする慣習があり、お膳の魚の代用品として、日持ちのするひな菓子のタイやサクラマスの切り身(この時期が旬)を利用するご家庭も多いようです。
お供えした大きなタイも、少しずつ切り分けて、家族みんなで楽しみます。