鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.022 〜サクラマス〜
 
株式会社仁三郎 代表 井関豊さん(由良地区)

ここではサクラマス、サクラ鱈、寒鱈など季節を冠して呼ばれる魚があります。四季の移り変わりをいち早く感じ、味わう地域だからこその名でしょうか。今回は桜のころに旬を迎え、鶴岡人が愛してやまないサクラマスのお話です。
 
漁師歴55年の井関豊さん。三瀬に生まれ、16の時から父の後を継ぎ定置網の漁師をしています。





暴雨風の翌日、久々に穏やかな青空のもと、鶴岡で最も大きな漁港がある由良を訪ねました。


海岸沿いに漁師たちが集まり、網やロープを手に黙々と補修作業をする光景があちこちで見られます。三瀬定置網番屋でもこれらの作業が始まっており、その一団に豊さんがいました。
「今年はいつもより遅れているんだ」と豊さん。時化や天候の悪い日が続き、定置網の準備がなかなか進まないと困り顔の様子。例年より1週間くらい作業が遅れています。

地元で消費されるサクラマス 年々評価も高まる

 彼岸過ぎに設置する定置網に、いち早くかかるのがサクラマスです。山形県の魚に指定され、地元で絶大な人気を誇るこの魚は希少で、県外に出荷されるより地元で多く消費されています。
 県などが稚魚放流事業を行うものの、その漁獲量は今も昔も変動がなく少ないため、キロ3000円から4000円で市場取引される高級魚です。

サクラマスは、川にいるヤマメのメスが海に下り、2年経って生まれた川に戻ってきます。通常は川に戻る前の海で捕獲しますが、川に戻ったものは一段と味わいを増していきます。特に庄内に戻るサクラマスは脂がのって味がよく、年々東京の市場でも評価が高くなっています。
 

 豊さんは鮮度の良い魚を消費者に届けるための工夫を凝らします。捕れたサクラマスは船内で神経締めにした後、海水シャーベットで保存します。従来の氷の保存では魚を4度までしか冷やさないのに対し、この手法では、-2度まで冷やすことができる最新の技術です。
神経締めとは、魚の頭に管を通し、神経を出し、血抜きすること。
 

父から受け継いだ定置網

 網は上記のように海へ設置します。これは豊さんが父から受け継いだものを改良して作った仕掛けです。従来の捕獲網にさらに小さな網を取り付けたり、網を海底に沈めたり、経験を元に改良を重ねてきたのです。

 定置網漁は海を回遊する魚を主に捕えます。昔に比べ、海水温の上昇により、魚種はアジやイワシなど南にいる魚が増えたものの、仕掛けの工夫により漁獲高は向上しています。

 「大漁だった時が何よりもうれしい。豊漁だった時、うれしくて思わず写真を撮りたくなる」と笑顔を浮かべます。番屋の壁には額に入った大漁の魚の写真が飾られていました。

 息子の敦さんと一緒に働く豊さんは、「後を継いでもらってまずはよかった。分かんねえけど、孫も漁師になるかもしれね」と3代で船に乗る日を楽しみにしています。自らの技術を継いでもらえればとの願いがあります。

漁師であり続けるために

 仁三郎旅館も経営する豊さんは、宿泊のお客様を対象に定置網漁業体験などを実施しています。体験のお客様は意外にも女性が多いとか。
「夏場は親子連れが多くってよ。作文で金賞とったなんてけっこう聞くな。将来漁師になりたいからと体験に来る子供もいての」と豊さん自身もお客様と共に漁業体験を楽しんでいます。
また、毎日眺め、生業にしていても、広く青い海は豊さんの心を捉えて離しません。
「漁師になるには、海が好きなことかな」。豊さんは休みの日に遠方へ出かけても、三瀬に戻って海を見るとゆったりとした心持ちになり、やっぱり海はいいなと改めて感じています。

漁師になった頃は貧乏で、仕事を選べる道はなかったという豊さん。今では約20名の漁師を抱える株式会社仁三郎の代表です。
漁師のなり手がいない時代もありましたが、近年では漁師を希望する若者も多く、豊さんの会社でも従業員の半数を占めます。給料は歩合制ですが、定置網ができない12月から3月の冬期間に若い漁師が収入を得られるよう、流木を使った肥料づくりなど新しい手法を模索しています。 
豊さんは、新しい漁師の在り方を見出そうと懸命です。
 
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問い合わせ
 鶴岡市食文化創造都市推進協議会

TEL 0235-25-2111 (内線529)

サクラマス

春祭りには欠かせない魚です。鶴岡ではタイより格上だとか。豊さんも三瀬地区の気比神社のお祭りの時には親戚一同で集まってサクラマスをいただきます。

収穫時期

<3月末から5月まで/td>
買えるところ 市内スーパーで買うことができます。

※収穫時期でも取り扱い商品がない場合もあるのでご了承ください。

 食べるところ 

仁三郎旅館 
 
山形県鶴岡市大字三瀬己308
TEL:0235-73-2109

おすすめの食べ方

豊さん曰く、煮ても焼いてもおいしい。春祭りに食べる料理は、素焼きした後、醤油をつけて食べます。サクラマスは、脂がのり、本来のおいしさが味わえます。

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