鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.052 〜トラフグ〜

山形県トラフグ研究会 代表 五十嵐健生さん
山形県栽培漁業センター 栽培漁業課長 余語滋さん

 鶴岡市三瀬地域に山形県栽培漁業センターはあります。ここでは、ヒラメ、クロダイ、アワビ、モクズガニ、アユなどの卵を採卵し、人工授精、稚魚を育て、放流するという漁業に関する種苗生産、供給をしているところです。
 センターでは、平成17年からトラフグの生産に取り組んでいます。トラフグは、フグの中でも最も高値で取引されている種類で、産地と消費地の中心は西日本ですが、近年は全国的にも流通するようになっている魚です。庄内浜でも、冬の味覚の一つとして特産品の一つとしてブランド化に取り組んでいます。今回は、庄内浜産のトラフグに情熱的に関わる方たちにお話を聞きました。

五十嵐健生さん 余語滋さん

トラフグのブランド化を目指して

 近年庄内浜でもとれ始めたトラフグは、漁師さんとセンターが密に協力しながら、その価値を確かなものにしつつあります。漁獲量も増え、庄内浜の冬の味覚の一つとして注目されつつある食材の一つです。平成17年には漁業者が中心となり山形県トラフグ研究会が立ち上がりました。漁獲量が増えてきた庄内浜産のトラフグを、安定して供給できるブランドにするためには、獲り方だけではなく、育てる、守る、と言う考え方が必要になります。
「この取り組みは、公的機関主体ではなく、漁業者からの声掛けでスタートしました。行政のような団体が声をかけて動き出すという取り組みが多い中、この事例は、全国的にも大変珍しいです。地域に暮らす人たちのための機関なので、本来であればあるべき姿ともいえますよね。」と話すのは公益財団法人 山形県水産振興協会の余語滋さん。山形県栽培漁業センターの栽培漁業課長です。

多くの漁業者が集う

 センターに取材に行ったこの日は、トラフグの稚魚を放流する日でした。たくさんの人が働いているんだ、と思ったら、なんと、集まっていたのは漁業者の皆さん。放流の効果がきちんと出たかどうかを、確認するため稚魚が生存するのに影響がない程度でヒレを切って標識にします。放流の直前にヒレ切りをするので、研究会の皆さんが集まり、作業をしていました。 

 研究会のメンバーは、鶴岡周辺だけに限らず、酒田や遊佐の漁師さんもいるため、遠方からも駆けつけていました。いろんな漁港の漁師さんたちが、各地から集まりおしゃべりをしながら作業をしているのはトラフグへの期待の大きさと、みなさんの一生懸命さが伝わってくるようでした。庄内の漁師さんは団結力が強い、と言っている方もいました。

作業しながらもみんな楽しそうだ

 「今年の稚魚はとても成育がいいです。しかも、ここのセンターはとても育て方がうまいので、大きさのばらつきもないし、姿がきれいです。水槽に入っている数が多すぎたり、餌のやり方がよくないとヒレが無くなったりサイズがバラバラになったりしてしまうんです。」と話すのは、ヒレ切り作業の現場に来ていた山形県水産試験場の本登さん。初代の山形県トラフグ研究会の代表だった鈴木重作さんと楽しそうに話をしながら作業に取り掛かっていました。

初代会長の鈴木重作さんと余語さん

この時はフグの稚魚の尾びれに標識をつけていた

 5月中旬から6月に卵を持ったトラフグが定置網にかかると、漁師さんから連絡が入ります。センターの職員が受け取りに行き、受精させ、数日で稚魚が生まれます。センターの大きな水槽で大切に育て、8月に放流します。放流後、2~3年後に成魚になったトラフグの一部が、漁師さんによって漁獲され、市場に流通することになります。出荷まで管理され育てるものは、養殖漁業と言いますが、それとは違い、放流されるまでを育てることを栽培漁業と言います。この場合、自然の海で育つため、庄内産の天然のトラフグとして取引され、高級食材として取り扱われます。

庄内浜の環境が育てる旨い魚

今年の放流数は4万匹

 余語さんは「トラフグは、安い魚じゃないから、安定して漁獲できれば漁師さんにとってすごくいいですよね。実は、すでに庄内産のトラフグは全国でも味がいいと評判で高値で取引されています。庄内浜は、福岡や山口などの有名なフグ産地にも負けないいいフグが育つ海なんです。」と話します。

 庄内浜は、一年を通じて130種類もの魚貝類が水揚げされています。たくさんの種類の魚が育つことができるは、海が豊かである証拠だとも言えます。栄養が豊富で、水の質も良く、寒流と暖流がぶつかり合うという複雑な環境であることを意味しており、身が締まり味も繊細になる。結果的に食味も評価が高くなるのではないか、と言うことでした。

漁業者のできることは

 実は年々、庄内浜で獲れる魚種は変化しています。トラフグも平成22年ころから大幅に漁獲が増えています。水温や水質の変化が原因か、とも言われていますが、変化に合わせた技術研究を進めており、獲る漁師も増えて来た事も漁獲が増えた理由の一つです。

漁業者が育てるトラフグ

「トラフグの取り組みに関してはもう一つたくさんの皆さんに知ってほしいことがあります。それは、漁師が自ら産卵期には禁漁の期間を設け、漁の自主規制をすることで自分たちで資源を守っています。これはすごい事です。一般的には、それなりの機関から設定されている場合が多いですから。」と余語さんは言います。
 現在トラフグ研究会の代表をしている五十嵐健生さんは、生まれはあつみ温泉。元は洋服販売の仕事をしていましたが、一生続けられる仕事を考え、釣好きが高じて2010年に鶴岡市の漁業後継者育成事業の研修を受け、翌年2011年から漁師になりました。由良で漁師をする中で、トラフグ研究会にも入りました。初代代表をしていた重作さんが他にも庄内おばこサワラブランド推進協議会などを兼任していたため、若手メンバーの中から新しいリーダーを決めることになり2016年から健生さんが代表を務めています。

 「昔はマダイがたくさん獲れたらしあんけど、だんだん獲らんねくなってきて、フグが入るようになったなやの。でも、獲れる年とそうでない年があったから、安定して獲れるようにするにはどうしたらいいか、栽培センターさ相談したのが研究会の始まりです。」と健生さん。

みんなの作業に目を配る健生さん

トラフグははえ縄漁の針にかかるのですが、一度にたくさんかかるというわけではなく、多くても5匹前後です。フグは刺激を与えると浮き袋が膨らむので、獲れたらまず浮き袋の空気を抜きます。人の歯よりも硬くて大きいフグの歯を、ニッパーで切り、体に傷がつかないよう塩ビパイプに一匹づつ入れます。その後水槽に移し、胃に入っているものを出し、体力を回復させてから出荷となります。一匹ずつ塩ビパイプに入れる作業に、とても驚いたというと、健生さんは

「当たり前だけど活魚として出荷するから、死んだら困る。冬はヒーター入れたり、いろいろ手間はかかるけど、農作物だっておんなじように手間はかかるわけだから、特別フグが大変というわけじゃない。仕事でやっているわけだから出荷のための当たり前の作業ですよ。」と笑って話してくれました。

トラフグが皿に盛りつけられると圧巻だ (photo:Takeshi Suda)

 「庄内のトラフグがブランドになるには、首都圏で有名にならないとなかなか厳しい。でも、仙台や新潟のように大きい市場もあるわけだから、庄内も市場は悪くないと思うなやの。でも、庄内はトラフグに金を出して食べるっていう文化がないから、地元にとっての身近なものになりにくいのは正直なところだと思う。」

「これからできることは、いろんな人が関わってトラフグをまず知ってもらって、食べてもらうこと。フグって家庭の味と言うよりも宴会や接待の席とかで、大きな皿に一流の料理人が豪華に並べてこその価値が出てくるところは大きいから、きちんとフグを楽しめる店があったり、トータルで高級な雰囲気を出せるようにするのは必要だよの。トラフグは冬が旬だから、寒鱈汁の次はトラフグってなれば一番いいよの。」

生産者が材料を整えて、次は出口をどうするか、という段階に今来ています。上質なものをすべて首都圏に送るのではなく、地元で高級食材としての立ち位置が確立され、食べたい人は来て食べる、というようになれば一番理想的なのかもしれません。

たくさんの親子が放流に参加した

 今年のトラフグの放流数は4万匹。油戸、温海、赤川河口、最上川河口、吹浦の5か所で稚魚が放流されました。油戸では地域の方に声をかけ、稚魚体験放流を行っています。今年も約30名の親子が4000匹のトラフグを放流しました。
 約2年後、放流したトラフグが冬の味覚として話題になるのが楽しみです。その頃には、トラフグ料理を楽しめる地元の料理店をご紹介できたらと思います。

(文・写真 稲田瑛乃)

トラフグ

西日本に産地があり、消費も西日本が中心となる。
フグの中でもっとも高価なのがトラフグ。
魚類中でももっとも高値となる。
寒い時期の魚で年末ともなるとキロあたり2万円を超すことも珍しくない。
フグ料理店でもトラフグしか使わないという店は高級店だ。
刺身(関西で、てっさ)、鍋、焼きもの、唐揚げなどフルコースで味わうのが基本。
天然ものは非常に高級だが、養殖が盛んになって、ときにスーパーなどにも並ぶようになってきた。

食べられるところ
(詳しくはお問合せ下さい)

城下町鶴岡 浜の台所
魚匠ダイニング 沖海月
(加茂水族館内レストラン)
997-1206
山形県鶴岡市今泉字大久保657-1
0235-64-8356

 
 

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