鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.060  ~庄内スマート・テロワール~

山形大学農学部付属やまがたフィールド科学センター 
エコ農業部門長 教授 浦川修司さん

[スマート・テロワール]という言葉は聞いたことがありますか?

現在、庄内で食料自給圏を形成しようという取組が進められています。山形大学農学部にこの取組を推進することを目的とした『食料自給圏「スマート・テロワール」形成講座』という5カ年の寄付講座が2016年から設置されていますが、今回は、中心で取り組まれている同大学の浦川先生にお話を伺いました。

理想は昔の農村社会のかたち

 浦川先生は三重県鈴鹿市のご出身。山形大学に赴任し4年目、今も農作業のためにご実家に通い、お米を作っているそうです。「遠距離兼業農家ですよ」と関西の訛りを含んだ明るい声で笑いながら話してくださいました。


「スマート・テロワールというのは、当時カルビーの相談役だった、故・松尾雅彦氏が提唱した造語です。一見真新しい言葉のように聞こえますが、要は、昔の農村社会の形に戻すことなんです。」

 

 コメの1人当たりの消費量はこの50年で半分以下になっています。日本の自給率は38%。このままコメを作り続けていても自給率は上がらない。日本の農業を何とかしなければならない。松尾氏が提唱したスマート・テロワールはそこから始まったそうです。


 キーワードは「循環型農業」、「耕畜連携・農工連携(農工一体)」、「地産地消」の3つ。市場経済で動かすのではなく、畑作を中心に生産者・加工業者・小売り・消費者など地域に住むみんながつながる経済の仕組みを作ることが一番根本にある目的なのです。

スマートテロワール

米どころ庄内で休耕田の畑地化

庄内で畑地化の取組、初めて聞いたときの印象を伺ってみると、

「実はね、初めに松尾先生から話を聞いたときは賛成できなかったんです。」そんなふうに切出してくれました。

 鶴岡に移り住み、この地に住む人たちがコメと田園風景をどれだけ大切にしているかを肌で感じていた浦川先生は、日本一の米どころで水田を畑地化する取組なんて受け入れられないと当初は思ったそうです。

しかし、休耕田は国内では埼玉県位の広さ(379,725ヘクタール)、庄内地区では1,400ヘクタール(東京ドーム約300個分)にもなる。この地域の農業のこれからを考えても、これを活用しない手はありません。スマート・テロワールが提唱するのは輪作。休耕田を畑地に変え、毎年作る品目を変えていくことで地力の維持や病害虫を避けることができ、1つの作物に頼らないことで不作のリスクも回避できる、余剰分や規格外品は家畜飼料にも回せる。この家畜からは畑地に撒く堆肥も得られる(循環型農業)。このように利点もたくさんあることを訴えながら農家や加工業者などに協力を呼び掛けていったそうです。


幸いなことに庄内には、研究機関の山形大学農学部、地元資本の加工業者やスーパーマーケットがあり、協力してくれる若手農家さんもいました。生産者と加工業者などが連携して課題に取り組む「チームマーチャンダイジング」の手法を取り入れ、農商工連携で加工品の商品開発を行っています。

「庄内で実証できれば、他の地域でも成功する。今はそう確信しています。」

水田の畑地化に向けた実証試験を行っている

いわば[チーム戦]。対戦相手は輸入の飼料や穀物。

 この取組を進めていると、しばしば「6次産業」と比較されることがあるそうですが、考え方に少し違いがあるそうです。6次産業は生産・加工・販売を個人やグループで取り組むため、農家同士が競ってしまっているのが現状です。それに対してスマート・テロワールはいわば[チーム戦]。対戦相手は輸入の飼料や穀物です。

「一農家が一人勝ちするのではなく、庄内全体が一丸となり輸入原料に頼らない仕組みを作りたい」浦川先生はそういいます。

定期的に勉強会なども開催し協力者を募っている

人の繋がりから、新しいもの、広がりが生まれている

 取組みから4年目。他県出身が多いスマート・テロワールの事務局は当初地元とのコネクションも少なく、マッチングにも苦労したのだそうです。


 そんな中でリーダーシップを取ってくれたのが株式会社東北ハム・帯谷社長。畜産チームのリーダーでもあり皆を牽引してくれる存在なんだとか。地元の農作物の規格外品をエサに肥育した豚を加工しハムやベーコン・ウインナーを商品化しました。現在は、酒田と鶴岡のスーパー各1店舗で販売され、月に一度のペースで試食販売も行っています、浦川先生は学生と一緒に店頭に立ちます。徐々にファンも増え、入荷を楽しみにしてくれています。お馴染さんやアドバイスをくださるお客さまがいて反応を直接感じられるのがなにより嬉しいのだそう。


 また、参画している若手の農家さんが事務局とチームを組み[スマテロキッチン]として市内のイベントに参加しています。商品化したベーコンを使った揚げピザやパネル展示、試食などを行い、たくさんの人に知ってもらう機会を作ってます。積極的にSNSなども活用していくことで、農作物の収量に比例するように取組に対する認知度も上がっているようです。

地元スーパーでの試食販売 リピーターも増えてきた

純庄内産の美味しい味をここに食べに来てほしい

 現在大学の農場や協力農家さんの畑で大豆・小麦・じゃがいも(馬鈴薯)・飼料用とうもろこしを輪作を実証実験しています。年に一度しか収穫できない4作物を輪作するのに最低4年。データ取りや実証などにも時間が掛かります。

「この取り組みは最低でも10年。長い目で見れば30年掛かるもの」そう浦川先生は言います。

今後は、農学部付属の高坂農場と現地試験場がセントラル農場として、賛同してくださる農家さんの輪を広げながら、若手農家や新規就農者(サテライト農場)に技術支援していきたいといいます。サテライト農場とは対等な関係で事業を進めていきたいのだそうです。安定した収量が得られ、加工販売も軌道に乗ると、農場や加工所での雇用促進にもつなげられることも期待できるそうです。

これまでの熱心な活動もあり、この取組をさらに推進していこうと大学と市が連携し、『庄内スマート・テロワール(庄内自給圏)推進協議会』が今年6月に発足しました。これからますます取組の輪が広がっていくことが期待できます。


ここで収穫した大豆や小麦から味噌や豆腐、麺やパンの試作も始まっています。年明けにはオール庄内産の醤油ができるのだそう。これらの加工品は県外に出荷・販売の予定はなく「ここに来て食べて欲しい」と浦川先生は言います。数年後の鶴岡には、純庄内産の美味しい農畜産加工品食べたさに県内外から人が訪れ、富良野のパッチワークの丘の様に様々な作物が育つ畑の風景と共に楽んでくれるようになるのかも知れません。


今年の1126日には東原町のグランド・エル・サンで豊穣感謝祭が開催される予定です。これまでの取組に関する講演や展示のほか、加工品の試食もできるそうです。「純庄内産の味」に興味のある方は訪れてみてはいかがでしょうか。


畑地が広がる月山高原(手前:馬鈴薯、奥:小麦)

 (文 山口美和)
 写真提供:庄内スマート・テロワール推進協議会事務局

※山形大学農学部寄付講座 食料自給圏「スマート・テロワール」形成講座 https://www.facebook.com/tr.yamagata.univ.smart.terroir.2016/ 


スマートテロワール

未利用農地の有効利用を図り、畑輪作(同じ畑でサイクルを作り毎年違う作物を育て、連作障害を防ぐ)と畜産との「耕畜連携」・畑作農家や畜産農家と地域の加工業者との「農工連携」・地域で生産された加工農畜産物を用いた欧州型食文化への転換「美食革命」の3つを基軸とした考えに基づく。現在庄内や長野で実証実験が行われている。

庄内スマート・テロワール推進協議会事務局

山形大学農学部附属やまがたフィールド科学センター        

997-0369 

山形県鶴岡市高坂古町5-3

TEL:0235-24-2278 

FAX:0235-24-2270

E-mailnogyomu@jm.kj.yamagata-u.ac.jp





商品化されたベーコン・ハム・ウィンナーは市内店舗で販売している

[販売店舗]
◎主婦の店パル店
◎ト一屋 みずほ通り店 
※毎月第2,4(木)or(金)に納品
※定期的に試食販売も実施中    


 
 

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