鶴岡の食文化を紡ぐ人々

No.063  はりはり漬
   
   つけもの処 本町 本間光太郎さん

鶴岡にはその季節になると食べずにはいられないごっつぉ(ごちそう・料理)が幾つもあります。12月になると食べたくなるごっつぉの一つに挙がるのが「はりはり漬」。干し大根を細かく刻んで野菜やスルメ・昆布などと一緒に醤油で漬けたもので、お正月のおせち料理に欠かすことのできない漬物です。

はりはり漬を製造販売している「つけもの処 本長」の本間光太郎さんにお話を伺いました。

つけもの処本長 4代目 本間光太郎さん

「はりはり漬は12月から1月の2か月間だけしか販売しないもので、一番売れるのは12月28日から30日までと短い期間なんです。うちでは在来作物の小真木大根を使っていて、一般的な大根で作ったものより食感が良く、文字通り”はりはり”するんですよ。」

つけもの処 本長といえば創業百十一年。明治41年に初代が灘(兵庫県神戸市)で粕漬(奈良漬)と出会い、漬物屋を始めたとか。味噌良漬が有名で、県内外の観光客や地元の消費者にも人気のある製造から販売までを手掛ける老舗漬物店です。

歴史のある商家に生まれ育った光太郎さんにとっては、行事食は身近なものだったと言います。特に鮮明に覚えているのは12月9日の夜に家族で食べる「大黒様のお歳夜」のご馳走だったとか。大根と豆尽くしの御膳には 「はりはり漬」も並んでいたそうです。

 この日はそんな「はりはり漬」の仕込みの日。佐藤工場長にお願いして漬ける様子を見学させていただきました。「小真木大根は干すどねじれんなよの」前工場長の山崎さんが作業をしながらお話ししてくださいました。寒風にさらされた小真木大根は使う時には写真のようにまるで小枝のように細くなります。スライサーでカットした小真木大根を水で戻し、昆布、塩漬けニンジン、するめを混ぜます。調味液を加えて途中ひたし豆を加え1週間から10日漬込みます。本長さんのはりはり漬はとてもシンプルですが、庄内にある漬物加工業者は数の子を入れたりしてそれぞれ入れるもので個性を出しているそうです。
1.材料の小真木大根 2.戻した大根に副材料を混ぜていく 3.手作業で丁寧に  4.醤油ベースの調味液に10日程度漬け込む。途中で浸し豆を加える。

加工業者として「在来作物」と向き合う

 在来作物を多く扱う漬物メーカーとしても有名な本長さんですが、取り扱うようになったきっかけを聞いてみると、「うちでは『在来作物』という言葉が知られるようになる前から、ずっと地物の野菜を使用することにこだわってたんです。民田なすや谷定孟宗、この小真木大根もそうです」昔から当たり前のように仕入れて加工していたのだと言います。

 後に、山形大学農学部の江頭宏昌教授やアル・ケッチァーノの奥田政行シェフによって在来作物の知名度が上がってきた時期に、光太郎さんの父 本間光廣会長も多くの在来作物の復活を手助けしてきた立役者のお一人として尽力されてきました。

在来作物は自家採種で作っているものが多く、手間がかかり作柄も安定しません。規格も揃えて出荷するのが難しいものです。一方、加工品として販売するには、サイズや見栄えなどクリアしなければならない条件がいくつもあります。また、生産者さんの数が少なく高齢化が進んで作物自体がなくなるかもしれないというリスクもあります。はりはり漬に使う小真木大根もその中の一つです。

近年は、天候不順や病害虫の影響で作物の出来が悪い年もあり、予定していた販売をあきらめざるを得ないこともあるそうです。そんなリスクを抱えながらも在来作物を使い続ける理由は一体なんなのでしょうか?


「きっかけは生産者が一人になってしまった在来作物。『このままではいかん』先代である父のそんな思いが始まりでした。この時にずっと扱ってきた野菜が貴重なものだということにも気づかされました」光太郎さんは言います。漬物業者として、流通の難しい在来作物をまとめて仕入れることで、生産者さんは安定した収益に繋げることが出来ます。自分たちの仕事が在来作物の支えにもなっている。そんな使命感もあるのだそうです。




小真木大根は寒風にさらす

地元農家と消費者をつなぐ大事な役割

 「商売なので、生産者・消費者・加工業者の三者がうまく回らないといけません。ウィンウィンな関係が理想ですね」と光太郎さんは言います。手間暇かけて育てたものが消費者の元に届けられなければ生産者は在来作物を作り続けられません。種は継承できなくなります。一方、消費者は商品の値段に敏感で納得したものにしか購入してくれません。2者の間に入ってみんなが満足できる商品を継続して加工・販売するのは大変なご苦労があるのではないかと思います。ご自身も生産者・消費者の生の声を聞くために、焼畑作業を手伝いに行ったり、県外のデパートの催事で店頭販売を行ったりと積極的に動いていらっしゃいます。


催事ではお客さまに在来作物についてのストーリーなどを説明すると納得して買っていただけるといいます。

 

 「モノではなくコトを買う時代です。美味しいだけでは駄目ですね。」

 

首都圏の催事で出会ったお客さまが漬物を気に入ってくださり、後日鶴岡を訪れお店に寄ってくださったこともあるのだとか。そういう時はとても嬉しいといいます。加工業者として在来作物の素晴らしさや味を首都圏の消費者にお伝えして、直接聞いた消費者の声を農家さんに届ける。農家さんはそれを励みに次の年も種を繋ぐ力にしていっているのだとお話を伺って感じました。

これからの漬物 ~守るべきものと新しい発想~

 消費者の健康志向が高まり『塩分は健康の敵』のような言い方をされることがあります。市販されている漬物の塩分は昔に比べると3分の1ほどになっているという事ですが、消費者がイメージする『漬物=塩分』のレッテルを払拭するのは大変なことなのだとか。漬物業界にとっては厳しい時代と言わざるを得ない状況です。

海外からのお客様にも漬物文化を伝えている

 「ご飯のお供としてだけでなく、新しい楽しみ方や地元の企業とのコラボを日々考えています。漬物業界の外からヒントを得る事はとても多いです」と光太郎さんは言います。

 はりはり漬けのような在来作物を使った伝統的な漬物をつくる一方で、鶴岡市で初開催された「つるおか名物コンテスト」で金賞、県の漬物展示品評会で農林水産大臣賞を受賞した『蔵王チーズ粕漬』のような新たな分野の漬物も生み出しています。

 光太郎さんは海外バイヤーとの商談会に参加したりフランスの小売店に卸したりと世界で漬物の知名度を上げる活動も積極的に行っています。この地域の食文化を学びに来たイタリア食科学大学の学生や外国人シェフに漬け物についての基礎知識や発酵、在来作物について外国人に伝える活動も行っています。

「県外での山形のイメージというと『さくらんぼ』。芋煮やだだちゃ豆もだんだん知られるようになってきたけど、『山形の在来作物』というと知名度はまだまだ。京野菜のように消費者にもっと知ってもらえれば嬉しい」就任5年目の若い社長の、古いものを大切にしながらも新しいものを作り出していく情熱が、鶴岡の食文化を守り育てていく力になるのだと思いました。

 (写真・文 山口美和)

はりはり漬け

干し大根を醤油やみりん、砂糖で漬けた漬物。昆布などの旨味や唐辛子を加えたものもある。ハリハリ=パリパリが語源といわれる。はりはり大根と呼ぶこともある。庄内地方ではお正月料理として欠かせないものとして知られているが、一部地域では大黒様のお歳夜に食べる風習もある。


株式会社 本長

山形県鶴岡市大山一丁目7-7

TEL:0235-33-2023

FAX:0235-33-0878

HP:http://k-honcho.co.jp/




 
 

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