鶴岡の食文化を紡ぐ人々
No.067 藤沢カブ
藤沢カブ生産農家 伊藤 恒幸 さん

藤沢カブ生産者 伊藤恒幸さん
継ぐことになった経緯と現在のこと
藤沢カブは、湯田川温泉の隣にある藤沢地区で焼畑栽培により作られている在来作物です。長さが10~15㎝ほどの細形で、見た目はカブというより、小さな大根のようです。傾斜地で栽培するため緩く「くの字」に曲がり、上はピンク色、下は白色をしています。以前は「峠の山カブ」「峠カブ」と呼ばれていたこのカブの栽培の歴史については「食文化を紡ぐ人々№54」をご覧ください。

藤沢カブ
この地域で生まれ育った伊藤さんは学生時代を含め仙台市で8年程過ごし、2011(平成23)年に、Uターンしました。当時は、実家の農業を手伝い、夜アルバイトという半農半Xでの暮らしから始まりました。それから10年以上経った現在は、両親と三人での家族経営の専業農家として生計を立てています。 伊藤さんの家では古くは、この藤沢カブを作っていましたが、採算性の藤沢低いカブの栽培をやめて、丸い赤カブを植えていました。しかし、藤沢カブの焼畑栽培を復活させた後藤さんの収穫を伊藤さんのご両親が手伝ったことから、「一緒に作らないか」と後藤さんに誘われ、現在に至ります。

だだちゃ豆の圃場 写真提供:伊藤さん
当たり前にあったカブ
伊藤さんは現在、藤沢カブの他に米、だだちゃ豆、赤カブ、そして冬期間にはビニールハウスで青こごめ(こごみ)を促成栽培しています。藤沢カブの作付面積は10~20a、収量にして600~900kgです。「藤沢地区では、藤沢カブの栽培についてとりまとめている協議会のような組織がないので、実際に地区で藤沢カブを栽培している人数や収量を把握していないのが本当のところです。藤沢カブはこれまでも各家庭で自家用として畑で栽培している人もいたので、後発的に定義を作って取り纏める必要はないと思いました。生産者さんの意識はそれぞれだと思うのですが、地元の人にとって当たり前に作ってきた藤沢カブは、特別な『在来作物』だという意識はあまりないかもしれません。」

藤沢カブの圃場
さまざまな人たちとの繋がり
現在、鶴岡市にはだだちゃ豆や温海カブなどの「在来作物」が60種類ありますが、その中には一定量市場に出回っているものから、細々と生産が維持されているもの、家庭内継承だけで栽培されているもの、そして栽培の維持が難しく既になくなってしまったものもあります。藤沢カブは栽培が大変な上に、漬物でしか食べることがなかったため、かつては販路がなく「幻のカブ」になってしまいました。ところが1993(平成5)年に「つけもの処本長」さんにより藤沢カブの漬物を製品化、さらに、アル・ケッチァーノの奥田政行シェフに藤沢カブの「生食や焼いても美味しい」という新たな魅力を取り上げていただき、市内のレストランや湯田川温泉の旅館で徐々に食材として使われるようになりました。一般市場には出回ることはなくても、食材の良さを引き出してくれる料理人たちと繋がり、ご縁をいただいたことで藤沢カブの作付面積を増やすことができたのです。 しかし藤沢カブは、連作障害や林業の衰退で、これ以上今の作付面積を増やすことはできないのが現状です。

藤沢カブ等の在来作物の漬物(ふるさと納税の返礼品として出品されている)
農業を地域の中でやっていく
伊藤さんは、若手農家の中でも専業農家として、地域に残って頑張っています。「農業は地域でやっていくもの」と伊藤さんは考えています。「自分は地域の中で働いていますが、地域外に出て働いている人も沢山います。父もまだ現役なので、消防団や地域の行事には積極的に一緒に参加しています。ここ3年位、コロナ禍で何もできませんでしたが、昨年の12月中旬には藤沢八幡神社にて『餅まき』という行事を久しぶりに行いました。小さい頃から楽しみだったこの『餅まき』は、『年結祭』という神事で、かつて貧富の大きかった時代に、地主などが神社に奉納した餅を地域住民で分け合ったことに由来する江戸時代から続く行事です。この日は沢山の餅が豪快にまかれるので、大勢の人が集まるんですよ。」

藤沢地域
種を紡ぐということ

藤沢カブの焼畑の様子 写真:伊藤さん提供
藤沢カブ
鶴岡市藤沢地区で栽培されている在来作物。 太さが2~3.5㎝、色は上半分が鮮やかな赤紫色で、下半分が白色をしている。 生で食べると赤い部分はほのかに甘く、白い部分には辛みがあるのが特徴 薄皮でパリッとした歯応えがある。 杉を伐採した斜面の焼き畑で栽培される。
